「大江・岩波沖縄戦裁判」大阪高裁判決報告会
去る10月31日、「大江・岩波沖縄戦裁判」勝訴の判決が出され、今日その報告会がありました。
開会に先立って、沖縄戦首都圏の会の事務局長、寺川徹さんと、すっかりおなじみになった裁判所前での旗出し嬢、平井美津子さんにより、くす玉が割られました。中味は大阪高裁前で平井さんが掲げた、勝訴の旗です。
開会の挨拶 吉田典裕さん
まず、原告側が昨日上告したことを報告した後、今まさに話題集中の「田母神論文」問題に触れ、批判がありました。
田母神元幕僚長は、憲法99条をすっかり忘れているのではないか。
自衛隊に入隊する時には、憲法擁護の宣誓をしなければならないはずである。
その自衛隊の高官が、憲法を否定するような論文を書き、またそのような発言を公の場ですること自体大問題である。
沖縄戦裁判のことについてはふれていないが、沖縄での日本軍の行為も美化されかねない。
そして、「まったく論文の体をなしておらず、高校生でもといったら高校生に失礼なほど低レベルの文章である」と、激しく糾弾しました。
最後に、ヴァイツゼッカー大統領の演説から、以下の言葉を引いて終わりました。
「過去に目を閉ざすものは、未来にも盲目になる」
(憲法第99条:天皇また摂政および国務大臣、国会議員、裁判官その他公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。)
近藤卓史さん
今回の判決にいたるまでの経過報告の後、高等裁判所の担当裁判官の印象について、「非常に細かいところに気がつく裁判官で、提出されたすべての資料に目を通している印象があった。詳細な事実認定から、全体の大きな流れまで、しっかりと目の行き届いた審議が行われた。最初はあまりの細かさに不安になったが、このような判決が出され、ほっとしている」
続いて「判決の大要」が述べられました。
1. 梅澤が自決を引き止めたと言っていることに対し、「今晩は一応お帰り下さい。お帰り下さい」と帰しただけであると認めるほかはない。つまり、自決を止めたということにはならない、としました。
2. 宮平秀幸は、控訴人梅澤が、自決してはならないと厳命し、村長が忠魂碑前で住民に解散を命じたのを聞いたということについて、裁判長はこれを「明らかに虚言である」と断じたことを報告しました。
通常は、「信じるに値しない」」とか「疑わしい」という表現はするが、裁判で「明らかな虚言」という表現はめったにないとのこと。
3. 梅澤命令説、赤松命令説が援護法適用のために後から作られたものであるとは認められない。照屋昇雄が、援護法適用のために、赤松大尉に依頼して自決命令を出したことにしてもらい、命令書を捏造したと話していることに対し、その話はまったく信用できず、また、このことを報道した雑誌も論考もとうてい採用できないとの判決理由が報告されました。
(4.5.略)
『太平洋戦争』や『沖縄ノート』についても、それらが発行された当時は、命令があったことが定説で、その後新資料がでたからと言って出版差し止めをするようなことがあっては、著者が萎縮し、執筆に支障が出ると近藤さんは語りました。
岡本厚さん
岡本さんは非常によろこびに溢れていたようで、「大きな山を越え、今はみんなでビールかけをやりたい気分だ」と語りました。
原告側の弁護団は30人もいたが、非常にずさんで、こちらの3人の弁護士は彼らの何倍も活躍してくれたと感謝していました。
集団自決について、「日本軍の深い関与があったことは否定できない」とした判決理由の、ただ「関与」でなく、「深い関与」と表現されたことに重要さを感じると語りました。
岡本さんは「今回の判決で、満足できない点はいくつかあるが、歴史の真実を決めるのは裁判ではない、歴史学者の研究と論争によるものだ」と語り、さらに、「藤岡信勝や小林よしのりらの歴史観は改めてただしていく必要がある」と語りました。
「月を指してチーズという人たちを相手にするな、とは言われるが、知的レベルの低い間違った歴史観によって修正された教科書を放置しておくことは、子供たちの未来にとってよくない」と語り、「この裁判から、沖縄戰とはどういうものかを学ばなければならない」という大江健三郎さんの言葉で結びました。
中村政則さん
中村さんは、内容的にはこれまでの報告者の発言と重複する部分が多かったのですが、大変ユーモアに溢れた語り口調で、楽しませてもらいました。
これは中村さんの予測ですが、住民に手榴弾が配られたとき、一発は敵に、一発は自決用にと(統一された)指示がなされたということは、このことについて大本営がかかわっていたのではないか、といいます。したがって、第32軍だけでなく、大本営を含む広い視野で研究することが望まれると語りました。
宮平証言について、「宮平が藤岡にそそのかされたことは明らかだ。宮平証言だけで裁判をひっくり返せると思ったのなら実におろかだ。もっと勉強して出直して来いと言いたい」と発言し、場内を沸かせました。
締めくくりは、「みんな実に良く勉強してくれた、これは学問の勝利であり、市民運動の勝利であり、そして総合力の勝利だ」とのことばでした。
平井美津子さん
旗出しでおなじみの平井さんは、大阪人らしく裏話で会場を笑わせてくれました。
小学校で学年主任をしている平井さんですが、判決の出た10月31日は遠足だったそうで、校長に頼み込んで「遠足を早退」させてもらったとか。
理由は話さず、校長も聞かずだったそうですが、新聞に写真が載ればバレます。
裁判所前で広げる旗は、何種類か用意するのだそうです。前回の地裁判決では「完全勝訴」「一部勝訴」「不当判決」を用意したそうなのですが、今回は「敗訴はないやろ!」ということで、「控訴棄却」一本。もし違う判決が出たらどうしよう、とどきどきだったとか。
平井さんは最後に、卒業生からの激励のメールを読んで、締めました。
このあと、石山久男さんから今後の取り組みについて署名の依頼がありました。
まだ問題として、検定意見の撤回がなされていないことがあると、検定問題について発言がありました。
この裁判は、沖縄の問題を「係争中」であるとして、検定に意見をつけることが目的のひとつであり、彼らはそれに成功している。勝てる見込みのない裁判を長く続けるということは、「係争中」の問題を「確定」させないことにある。その狙いを阻止するためには早く裁判を終結させる必要があると、裁判の早期決着を要請することの協力が依頼されました。
途中配られた共同声明について説明があり、声明はこの記事の最後に掲載しておきます。特に(7)が重要なので、目を通して下さい。
集会の最後に事務局長の寺川徹さんから閉会のことばがありました。
「今回の判決には、大いによろこびたい。この裁判は〈名誉毀損〉から始まったが、それが〈教科書問題〉〈憲法問題〉へと発展した。私たちは今、大変大きな問題にかかわっている。この判決の意味を噛み締めて、広く世に広めていくことが、これからの仕事です」
■資 料:大阪高裁判決についての三団体共同声明
(1)2008年10月31日、大阪高等裁判所第4民事部(小田耕治裁判長)は、平成20年(ネ)第1226号 出版停止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成17年(ワ)第7696号)、いわゆる大江健三郎・岩波書店沖縄戦裁判控訴審で、「本件各控訴および各控訴人らの当審各拡張請求をいずれも棄却する。当審における訴訟費用は控訴人らの負担とする」との判決を言い渡した。
(2)大阪高裁判決は基本的に原審を維持し、ふたたび、沖縄戦の真実を歪曲した控訴人(原告)らの主張の誤りを明確にしたばかりでなく、控訴人らの主張の信用性を立証するための裏付け調査等がなされた形跡もないことなど、きわめて問題だと指摘し,控訴人ら弁護士の立証活動が科学的、実証的なものではなく,いい加減なものであったと指摘したものと言える。
(3)それにかかわって、控訴人梅潭が「自決するな」と言ったという主張を明確に否定し、住民に玉砕(自決)を求める方針を決して変更しなかったことも認定したことは重要である。さらに控訴人らが持ち出した宮平秀幸新証言を虚言と断じ、それを擁護し補強を試みた藤岡信勝意見書なども採用できないと断言したことも重要である。
(4)戦隊長梅潭・赤松の玉砕(自決)命令については、「伝達経路が判然としない」という原審を訂正し、「住民への直接命令」と狭く限定したうえで、証拠上からそれを認定するのは無理があるとした。本来ならば、事実上の戒厳令下の「合囲地境」にあった慶良間列島において、命令の伝達経路は明確にされており、隊長命令なしに集団死が起こり得なかったことを判示すべきだったと考える。
(5)しかし重要なことは、もっとも狭い意味での隊長命令の存在を認定しなかったからといって、それが、隊長命令がなかったことを意味するものでもなく、総体としての日本軍の強制ないし命令と評価する見解もありうると、高裁判決が明言していることである。
(6)そのさい、国家機関としての裁判所は本訴訟の主題である名誉毀損等の成否にかかわる限りで歴史事実についての判断をするべきであって、本来、歴史的事実の認定は歴史研究の場において研究し論議を蓄積していくべきものであるとしたのは妥当な判断であり、それは控訴人らが集団死についての軍命の存在を否定することを裁判所に求め、それをもって教科書を書き換え、国民の歴史認識を歪曲しようとしたことの不当性をいっそう明らかにしたものといえる。
(7)高裁判決は、新たに、日本国憲法が保障する言論表現の自由を最大限に尊重することが民主主義社会の基盤であるという立場から、出版差し止めが成立するための条件を明確にし、それにもとづいて出版差し止め請求を棄却した。これは憲法が定める権利の保障をいっそうすすめるうえで貴重な判断である。とりわけ公務員に関すること、いいかえれぱ国家権力の行為についての自由な言論の保障の必要性が高いことを明確にしたことは重要である。この判断に従うならぱ、国家権力を構成する軍隊の行為について教科書においても自由な言論が保障されるべきである。教科書記述を政府が認める特定の枠のなかにとじこめようとする教科書検定、とりわ付今回の沖縄戦検定の不当性は、この点からもいっそう明らかになった。
(8)よって文部科学省に対し、沖縄戦に関する2006年度検定意見をただちに撤回し、「集団自決」における軍の強制・命令の記述の復活を含め、記述の再訂正による改善を直ちに認めることを強く要求する。
(9)控訴人らは最高裁に上告するとのことであるが、最高裁に対し、すみやかに上告を棄却することを求める。
二〇〇八年十一月五日
大江健三郎・岩波書店沖縄戦裁判支援達絡会
沖縄戦の歴史歪曲を許さず、
沖縄から平和教育をすすめる会
大江・岩波沖縄戦裁判を支援し
沖縄の真実を広める首都圏の会
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齋藤さん
実はぼくも原稿の〆切がせまっていてどうしようかと思ったのですが、気分転換に出席しました。
天候に恵まれなかったにもかかわらず、100人以上もの出席者で盛大でした。
「判決文全文」は地裁よりだいぶ厚く、詳細な審議のようすがあらわれていました。
次の機会にお会いしましょう。
投稿 ひまわり博士 | 2008/11/13 10:20
本業が忙しくてとても行けない状況でしたが、大要よくわかりました。ありがとうございます。
投稿 齊藤 | 2008/11/13 07:00