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後期高齢者医療制度をどう見直すか
2008.11.13 更新
*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。

 後期高齢者医療制度の見直し議論に新たな動きが出てきた。舛添要一厚生労働相は、『中央公論』12月号で、「俺の言うとおりにしないと、自民党は終わりだ!」と題する論文を発表、制度改革への決意表明とともに、その具体的な方針を明らかにした。

 75歳以上の高齢者を対象にした後期高齢者医療制度は、2008年4月に実施される以前から、75歳という線引きの曖昧さ、保険料の年金からの天引き、保険料の地域格差など、問題点が明らかで、メディアを中心に批判を巻き起こした。見切り発車の後、福田前首相は「長寿医療制度」と看板を書きかえたものの、説明不足や後手の対応がたたって国民の不信をぬぐうことはできなかった。

 舛添厚労相も当初、後期高齢者医療制度を強く肯定していたが、麻生新政権発足後、態度をひるがえし、制度の抜本的な改革が必要であるとして「舛添私案」を披露していた。

 今回、舛添厚労相が『中央公論』に発表した医療制度改革の見直しは、次の3つ。(1)(年齢による線引きをしない)制度一体化の方法として、具体的な保険料の負担や国保、健保組合間の財政調整を行う(2)市町村から都道府県に保険料を統一する際の激変緩和措置を設ける(3)都道府県が運営主体となるための条件整備を行う。これらについて1年をめどに具体化し、医療費負担については、公費負担を拡充するべきであること、その財源として消費税の税率アップしかないとしている。

 だが、新たな医療制度の樹立に邁進するまえに、考えておかなければならないことがある。これまでの医療制度への検証である。日本は、1961年に国民皆保険制度を設立。保険証1枚ですべての国民が、いつでも、どこでも、安価に、医者にかかれる社会と長寿とを実現させた。ところが73年の老人医療費無料化から、雲行きがおかしくなった。医療費をとりはぐれる心配がないから、病院は次々に新設され、病床を増やしていった。結果、病院は高齢者たちの集会所と化した。

 必ずしも医療的処置が必要ではないのに長期入院する「社会的入院」患者は、現在30万人を超える。いっぽうで、特別養護老人ホームへの入所待ちをしている高齢者は38万人を超えるなど、老人福祉施設は圧倒的に不足している。本来、老人ホームで過ごしているはずのお年寄りの多くが、病院のベッドで過ごしているのである。介護と医療のタテ割行政の弊害が顕在化しているといってよい。現在問題になっている医師不足も、そもそも病院・病床数が供給過多であることに一因があるとの指摘もある。厚生省が膨れ上がる医療費に危機感を抱き、老人医療費の有料化に踏み切ったのは、82年になってからだ。

 日本が少子高齢化していくことは70年代からわかっていたことである。いいかえれば、老人医療費無料化は、お年寄りの票がほしい自民党と、長期的な展望を欠いた厚生行政のバラマキだったというしかない。2008年3月に公示された「後期高齢者に関連する診療報酬」では、「診療報酬の定額化」「リハビリの日数・回数制限」を盛り込み、お年寄りの追い出しにかかるなど、医療制度改革の「見直し」は迷走を続けている。まさに構造的欠陥のツケを国民が負わされているといってよい。

 国として社会保障制度はどうあるべきか、10年議論された結論が後期高齢者医療制度だったはずである。舛添私案を論議する前に、国は率直に過去の厚生行政のどこに過ちがあったのか、国民に明らかにすべきではないか。

(館石 淳 たていし・じゅん=『日本の論点』スタッフライター)


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