2008-09-20
■[経営][システム開発][Agile開発]レバレッジ経営・レバレッジ開発
- ということで、リーマンブラザーズが飛んでしまった。
- 例によって「デリバティブ取引が悪い」などという論調もあるが、デリバティブだけが悪いのではない。
- 借入れた資金でレバレッジをかけて張っていたのが問題なのだ。
- 以下、かなり長文
レバレッジ
- 自己資金1万円で年利5%の運用をしても、利回りは5%。当たり前。
- でも、5万円を年利2%*1で借りて、自己資金と合わせて5%で運用すると...
- 得られる利益は60,000*0.05=3000円
- 借入金に対する利息は50,000*0.02=1000円
- 差し引き2000円の運用益
- 自己資金10000円に対する利回りは20%!
低金利で借り入れて投資に回すことで、高い運用益を実現できる。これがレバレッジのもたらす恩恵。では、短期で借り入れる金利が上昇したらどうなるだろう? 例えば上記例での短期借入れ金利が4%に上昇したとしよう。
- 5万円を年利4%で借りて、自己資金と合わせて5%で運用すると...
- 得られる利益は60,000*0.05=3000円
- 借入金に対する利息は50,000*0.04=2000円
- 差し引き1000円の運用益
- 自己資金10000円に対する利回りは10%
利回りは半分になってしまった。でもご安心を。借入れ資金を15万円に増やせばよいのだ。
- 15万円を年利4%で借りて、自己資金と合わせて5%で運用すると...
- 得られる利益は160,000*0.05=8000円
- 借入金に対する利息は150,000*0.04=6000円
- 差し引き2000円の運用益
- 自己資金10000円に対する利回りは20%
ということで、当初の目標20%を達成できた。でも待てよ。なぜ20%利回りで満足しているのだ? もっとレバレッジをかければよいではないか。
- 100万円を年利4%で借りて、自己資金と合わせて5%で運用すると...
- 得られる利益は1,010,000*0.05=50500円
- 借入金に対する利息は1,000,000*0.04=40000円
- 差し引き10500円の運用益
- 自己資金10000円に対する利回りは100.5%!!
でも、世の中うまい話ばかりではない。5%運用が実現できないこともある。
- 自己資金1万円の運用に失敗し、-5%の損益発生。自己資金100%なら、損失は500円限定。当たり前。
- でも、100万円を年利4%で借りて、自己資金と合わせた投資先が-5%になると...
もちろん、最初からこんな無謀なレバレッジをかける阿呆はいないであろう。最初は2倍とか4倍とかでリスクを下げて始めるはずだ。が、そうして着実に利益を伸ばしていくことで、徐々にリスクを取り始めるようになる。そして収益が上がっていくことで、さらなる収益を求められ、徐々にレバレッジが危険域にはいっていく。(ミンスキー理論だっけ?)
自分はレバレッジを否定しない。業績が伸びるときは活用しない手はないだろう。ただ、引き際をわきまえないと、あっという間に会社はすっ飛ぶ。
システム開発におけるレバレッジ
- システム開発でもレバレッジをかけることがある。
- いわゆる外部開発の活用。
- 100MMのシステム開発を1MM 200万円の社内労働力10名で開発したら、原価は2億円。
- でも、外部(例えば中国とかインド)の安い労働力を活用すると話は変わってくる。
- これだと、原価は1億2500万円
- 100%社内でやるより、7500万円浮く
- 浮いた分は利益を厚くするのに使ってもよし、値引き原資に使うもよし
- 仮に3億円で売るとすると
- 全部内製なら、利益は1億円。これを自社10名で実現→社員一人当たり1000万円
- 外部を使うと、利益は1.75億円。これを自社5名で実現→社員一人当たり3500万円
外部の安い労働力を活用することで、一人当たりの利益が伸びる。つまり、高利益な体質の企業になれる。システム開発におけるレバレッジである。
だけど、やはり問題はある。インドという国が豊かになると、インド人の労働単価が上昇する。また、インドの通貨も高くなる。例えば人月あたりの原価が100万円になってしまったとしよう。どうすればいいか?
- 答えは簡単: さらにレバレッジをあげればいいのである。
- これだと原価は1億1000万円
- 仮に3億円で売るとすると利益は1.9億円
- 社員一人あたりの利益は1.9億円!!
レバレッジ開発の利点
- 開発案件が増えていく過程では、一人当たりのレバレッジを増やすことでより高い成長を実現できる。
レバレッジ開発の欠点
- 開発案件が減っていく過程では、レバレッジ率も下げざるを得ない。結果、景気後退(受注減少)による影響が増幅される。
- 外部の安い労働力を活用する工程は、どうしても「付加価値が低いとされる下流」となってしまう。結果、自社社員がこれらの「下流」とされる工程に関わる機会は減る一方。
- そして高レバレッジな期間が長く続けば、その間に就職してきた新人達は「下流」とされる工程を理解しないまま、中堅〜管理職と成長していく。しかも、こういう時は業績も好調なので、採用される若者の数は多い。*2
- そういう「わかってない」中堅〜管理職がたくさん育った頃に、景気後退の波が押し寄せてきたら...
どうでも良いこと
自分はレバレッジ経営やレバレッジ開発を否定しない。利益を追求するのが企業の使命である以上、好調時にはある程度のレバレッジをかけるのは当然であろう。ただし、好景気がずっと続くような前提の戦略はどこかで破綻する。景気後退が始まったら低レバレッジ(=高内製率)の体制に移行できるような準備をしておくべきだったのではなかろうか。←もう手遅れだよ、というのが見え見えの締めくくり。