滋賀、京都、大阪、三重4府県の知事が、国土交通省近畿地方整備局が約3800億円をかけて淀川水系に建設を計画している四つのダムのうち、大津市の大戸川(だいどがわ)ダム建設を事実上凍結するよう求めた。2ダムは容認、1ダムは留保した。国のダム建設に流域の知事が共同して反対するのは全国でも初めてのことである。地元知事の一致した判断を尊重し、国は計画を見直すべきだ。
整備局は今年6月、大戸川ダムなど4ダムを盛り込んだ淀川水系の河川整備計画案を公表、河川法に基づき地元知事に意見を求めていた。しかし、整備局の諮問機関・淀川水系流域委員会はそれに先立つ4月、ダム以外の検討が不十分とした中間意見書をだしており、その後、「堤防強化や河川改修を優先すべきだ」とした最終意見書を提出した。整備局の計画案公表は、委員会の一連の審議をないがしろにするもので理解に苦しむ。
200年に1度の豪雨があった場合、大戸川ダムがあれば淀川の水位は計画上の危険ラインから2センチ下がるという。今の堤防でも上端まで2メートル余裕がある。その程度の効果なら堤防の安全性は変わらないと専門家は指摘している。既存ダムの有効活用などの選択肢もある。ダム建設費は1080億円で、約3割を地元が負担する。厳しい財政事情の中、まずダムありきで多額の税金を支出するのが妥当だろうか。知事が慎重になるのも当然だ。
ダム建設を巡っては熊本県の蒲島郁夫知事が、同県を流れる球磨川水系で計画されている川辺川ダム建設への反対を表明した。流域住民にとって「球磨川そのものが守るべき財産だ」という判断からで、国のダム至上主義に一石を投じた。これまでのダム建設で、住民の宝ともいえる河川環境が破壊されたことに厳しい批判があったからだ。
そもそも97年に河川法が改正され、知事や住民、学識者の意見を聞くよう義務づけられたのも、95年に完成した長良川河口堰(ぜき)建設で、国の強引な手法が厳しい反対運動を招いた反省による。住民の理解なくして今やダム建設は進まない。
一方、大戸川ダムの建設では水没予定地の50世帯以上が既に集団移転している。治水政策の変化に翻弄(ほんろう)された犠牲者といえる。滋賀県は地元住民の理解が得られるよう、十分に説明を尽くす義務がある。地域整備などへの配慮も必要だ。
麻生太郎首相は国の出先機関統廃合に意欲を見せている。淀川水系のダム計画を巡っても、地元議会などのチェックを受けない出先機関のあり方が疑問視された。知事らの動きをけん制しようとする整備局の姿勢も、存続をかけた危機感の表れにみえる。流域知事の連携で国の治水政策を変更させられるかどうか、地方分権のあり方も問われる。
毎日新聞 2008年11月13日 東京朝刊