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【暮らし】

若手産科医が生き生き 岐阜市・国立病院機構長良医療センター 

2008年11月13日

 過酷な勤務や訴訟の増加で若手医師が産科を敬遠するなど、産科医療は深刻な状況が続く。だが若手が生き生きと働く病院もある。国立病院機構長良医療センター(岐阜市)の産科は三年前の開設以来、胎児治療などで特徴ある診療を実践し、今年は二人の若手医師が仲間入りした。三十代が中心になって産科を盛り上げる取り組みを追った。 (福沢英里)

 「この患者さん、微熱が続くのが気になります」。昨年四月から働く西原里香医師(33)の指摘に、「南側の部屋の患者さんに多い気がする」と先輩の岩垣重紀医師(35)が応じた。話を黙って聞いていた川鰭(ばた)市郎産科医長(53)は「部屋が暑いんじゃないか。この時期は気をつけないと風邪をひくぞ」と注意を促した。

 お昼のカンファレンスは原則毎日開かれる。外来担当以外は仕事を中断して小さな休憩室に集合。長テーブルを囲むように向かい合って昼食をとった後、入院患者一人一人について経過が報告され、問題があれば、対処の仕方を話し合う。若手医師同士のコミュニケーションの時間でもある。

 同センターは、日本でも数少ない胎児診断や胎児のレーザー治療を行う拠点病院。入院は多胎妊娠などハイリスクの妊婦が多く、期間も長期に及ぶ。産後のケアも重要だ。

 カンファレンスを重視するのは「全員主治医制」をとっているためだ。全員主治医制とは、常勤医師全員がすべての入院患者を受け持つこと。患者の情報を全員が共有していれば、より多くの症例を経験でき、各自のスキルアップにもつながる。当直時の対応もスムーズになるため夜間の呼び出しが減り、個人の負担軽減にもなる。

 分娩(ぶんべん)数は昨年度四百六十三件あり、うち百九十五件(約42%)が帝王切開。いずれも、開設以来増え続けている。双胎は四十九件、死産も四十四件あった。心臓に穴が開いているなどの胎児形態異常の症例は百件を超える。

 胎児治療を集中的に行い、専門技術が必要な中身の濃い症例を多く経験できる−。長良医療センター産科を志願した若手医師はみな、この特色にひかれてやってきた。神戸生まれ、大阪育ちの西原医師にとっても岐阜は初めての土地だったが、「やる気のある人ばかりだから、足のひっぱり合いなど不要なストレスがない」と話す。

 前の病院までは、月の半分は当直という過酷な勤務をこなしていた。常勤医師七人の今は当直回数も月に四−五回に減り、親の介護のための急な休暇や、夏休みも取得。学会に参加できる回数も増え、海外での学会に備えて英会話学校にも通う。

     ◇

 日本産婦人科医会が七月に行った勤務医の就労環境についての全国調査によると、分娩を取り扱う病院は昨年一月の千二百八十一施設から千百七十七施設に減少。そのうち、回答のあった八百五十三施設の平均の当直回数が五・九回、当直を除く就労時間は週五十二時間だった。

 日本産科婦人科学会の海野信也・北里大医学部教授の調査では、一般病院勤務医の月間の勤務時間と時間外在院時間が計約三百時間に及ぶことも分かっている。

 川鰭医長は「行政の無策で放置された東京都の問題は論外。若い医師が働く意欲を持てるような環境の整備こそ望まれる」と指摘。「時間外賃金の充実は必須。だが、新しい知識を吸収したり、尊敬する他施設の先輩医師と話す機会があれば、若手はもっと伸びる」と強調する。

 

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