参院外交防衛委員会は、歴史認識に関して政府見解を否定する論文を発表し、更迭された田母神俊雄・前航空幕僚長を参考人として招致し質疑を行った。
歴史認識で政府見解を否定する内容の論文について、田母神氏は「いささかも間違っていない」と自身の正当性を繰り返し強調し、シビリアンコントロール(文民統制)の面で疑義を生じさせたことへの反省の弁はなかった。
「国民に不安を与えたことはない」とも述べた。航空自衛隊の前最高幹部という立場をわきまえず、逆にそのポストを利用して自説を世間に訴えたとしか言いようがない上、開き直りとも受け取れる発言には首をかしげざるを得ない。
政府が田母神氏を懲戒処分にしないで定年退職させた手続きに関して、浜田靖一防衛相は「(懲戒手続きの審理の中で)政府見解と異なることを新たに主張されて、自衛隊員の士気が落ちることは避けたかった」と釈明した。
田母神氏は懲戒処分の審理に入っていた場合の対応を聞かれ「村山首相談話は政治声明だと思うので、われわれにも言論の自由があることを主張するつもりだった」などと答弁した。今回の論文発表は確信犯的要素が強いことを印象づけた。
政府はそうした意図を察知し、懲戒処分の審理を避けて問題の早期収拾を図ろうとしたのだろうが、対応を誤った感は否めない。火種は残ったままといえる。一方で田母神氏は言論の自由を持ち出した。もちろんそれは誰にでもあるが、立場によって制約されるのは当然だということを理解すべきである。
論文応募の組織的関与の有無では、田母神氏は懸賞論文の募集について、航空幕僚監部の教育課長に紹介したことを明らかにした。教育課長は「自己啓発に役立つ」としてファクスで論文の存在を各部隊に周知させていた事実が判明している。
田母神氏は直接的な指示は否定したが、本人が関与して組織的に投稿を働き掛けていた疑いが濃厚となった。このほか田母神氏は憲法九条に関し改正の必要性を訴えた。
論文で集団的自衛権の行使容認論も展開した田母神氏を空自トップに就任させた政府の任命責任も問われたが、この日の質疑ではあいまいなまま終わった。この点は極めて重要なポイントだ。
文民統制が有効に機能していないと不安視する声は多い。自衛隊内部の規律の緩みも指摘される。今後、国会で議論を深める必要がある。
麻生内閣の支持率が低下した。共同通信社の全国電話世論調査では、内閣発足後初めて不支持が支持を上回った。麻生太郎首相の政権運営が困難を増すのは必至だ。
調査は八、九両日に実施した。内閣支持率は40・9%で、十月十八、十九両日の前回調査に比べて1・6ポイント減った。不支持率は反対に3・2ポイント増えて42・2%となり、支持率を超えた。
支持しない最大の理由は「経済政策に期待が持てない」の27・9%だった。三割近くも占めたことは、景気対策で政権浮揚を狙う首相には衝撃であろう。
麻生政権は、金融危機への対応と景気刺激のために事業規模約二十七兆円の追加経済対策をまとめ、総額二兆円の定額給付金を盛り込んだが、追加対策を「評価する」は37・1%にとどまり「評価しない」が47・9%に上った。対策の目玉である定額給付金にいたっては、評価しないが58・1%で、評価する31・4%の倍近かった。
定額給付金をめぐっては、景気への効果がはっきりせず、ばらまきに終わって国の財政を一層悪化させるとの批判が根強い。さらに、定額給付金について首相の発言が当初の全世帯支給から所得制限の必要性、そして高所得者の自発的受け取り辞退へと二転三転したことで、給付に対するありがたみが薄れた面は否めないだろう。
世界同時不況の足音が次第に大きくなり、日本国内でも製造業などで雇用不安が高まっている。一刻も早く政策を総動員して実体経済への悪影響を食い止めなければならないのに、麻生政権のもたもたぶりが目立つ。
世論調査で内閣を支持すると答えた人も「首相に指導力がある」は10・1%と低かった。国民の厳しい目をしっかり認識してもらいたい。
(2008年11月12日掲載)