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【国際】

ダライ・ラマ、強硬中国に失望 岐路に立つチベット

2008年11月12日 朝刊

日本外国特派員協会で会見する、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世(左から2人目)=3日、東京・有楽町で

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 先月三十一日から今月七日まで日本を訪問したチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ十四世(73)は、記者会見などで「中国への私の信頼は失われつつある」と執拗(しつよう)なほど繰り返した。中国に対する「最後通告」とも受け取れる発言で、これまでの訪日で政治的発言を封印してきたのとは対照的だ。ダライ・ラマの失望感の背景には、チベット問題が重大な岐路に差しかかっている現実がある。 (外報部・浅井正智)

 「中国の最大の欠点は報道の自由がないことだ。そのために多くの中国国民は真実を知ることができない」

 ダライ・ラマは来日中、何度もこの点を強調した。今年三月のチベット暴動後、ダライ・ラマが求める第三者機関による真相究明のための現地調査を中国側は拒否。中国はダライ・ラマを暴動の首謀者とみなし、「法衣をまとったオオカミ」とまで侮辱した。その不満が一連の対中非難となって表れた。

 ダライ・ラマの対中不信には伏線がある。一九七九年に〓小平氏が、チベットの将来について「独立以外についてならば、どのような問題でも話し合う用意がある」と発言し、対話のきっかけがつくられた。しかし実際に対話が始まってみると、中国はダライ・ラマ側に対し、台湾独立を支持しないことや独立急進派「チベット青年会議」の抑え込みなど要求をエスカレートさせてきた。

 中国側は暴動後、ダライ・ラマの特使と対話を三回行い、「中国政府の誠意と寛大さを示した」(共産党の杜青林・中央統一戦線工作部長)と自賛するが、「対話はチベットに前向きの変化をもたらしていない」(ダライ・ラマ)のが実情。北京五輪の前後に対チベット融和ムードを演出する狙いが濃厚だ。

 「ダライ・ラマは、自分が誠意を示せば中国も誠意で応じるだろうとみていたが、現実はそうならない。ここにきて、中国は誠意が通じない相手だと気が付いた」と在京のチベット関係筋は指摘する。

 十七日からは、亡命チベット人代表が集まり、対中対話継続の是非を話し合う緊急会議が開かれる。チベット青年会議も出席するこの会議では、「議論はオープンであり、あらゆる問題が討議される」(ダライ・ラマ)とされ、対話打ち切りの可能性が焦点だ。

 一方、ダライ・ラマ自身は沈黙を貫くとし、議論を主導する考えがないことを表明している。しかし、一日に在日中国人と懇談した際には「(中国との対話を進める)中道路線を堅持する」と明言した。

 これは「対話路線を放棄し、中国との対決姿勢を前面に出せば、非暴力主義ゆえに国際社会からダライ・ラマが得ていた側面支援を失いかねない」(関係筋)ため。ダライ・ラマの意思が明確である以上、それに逆らう結論が出る可能性は低いとみられ、関係筋は「チベット人の総意として対話路線継続を再確認する場になる」と見通している。

 中央統一戦線工作部の朱維群・副部長は十日、ダライ・ラマが求めるチベットの「高度な自治」を「半独立」「形を変えた独立」と決めつけ、「いかなる譲歩も絶対にあり得ない」と強硬姿勢を鮮明にした。対話を継続しても、自治実現の道筋が見えてくる兆しは今のところない。

 ダライ・ラマは日本での会見の中で、中国政府への失望感と対置する形で「中国国民に対する信頼は変わっていない」とも述べた。この発言は、共産党政権との交渉はもはや困難で、穏健な民主政権の誕生を待たなければ交渉は進まないという悲観的な認識を示したものともいえる。

※〓は登におおざと。

 

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