「ハクチョウも客も来ない」 餌付け自粛の十和田湖畔
十和田市奥瀬の十和田湖畔。約30年前から毎年、飛来シーズンにはパンの耳を売る無人の台が設置されてきたが、シーズンに入った今は、その台はない。 「観光客がパンの耳を買い、ハクチョウに餌としてやる。体験型観光を提供することで、客を増やしてきたのに…」。台の設置者で土産物店「織田観光」店主の織田盛好さん(70)は、ため息をつく。 11月―4月の毎シーズン、同店の餌の売り上げは約30万円。県による事実上の餌付け禁止命令で「一瞬でパー」になった。ウイルス検出と7月の岩手沿岸北部地震による風評被害のダブルパンチに泣く湖畔では、決して少なくない額だ。 十和田湖畔から北東に約45キロ、青森県おいらせ町に車を走らせる。毎年約500羽が越冬する間木堤にも、自粛要請の影響がもろに出た。例年ならばもう、150―200羽が集まってくる時期だが、羽をけがして夏から滞留している2羽しかいない。当然、観光客もまばらだ。 原因は餌不足。餌付けをやめたため、あるべき餌がなくなり、ハクチョウが全く寄り付かない。12年間、町の保護監視員を務める蝦名幸政さん(72)は「こんな状態は初めて。自分にだけでも餌付けを認めてくれれば、すぐに羽数を回復させられるのだが…」ともどかしさを口にした。 餌付け自粛を決めた県庁から、遠く離れた観光地に漂う閉塞(へいそく)感。県自然保護課は関係者の思いに一定の理解を示しながらも、「関係市町村と協議した上で自粛要請を決めた。協力してほしい」と話している。
2008年11月12日水曜日
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