政府・与党が追加経済対策の目玉と位置付けている定額給付金について、法律による所得制限は行わないことで合意した。高額所得者には自発的な受け取り辞退を促す方式とする。この種の措置で、受け取る受け取らないを本人に任せることは前代未聞である。
麻生太郎首相が年度内給付にこだわったためだ。これは連立与党、公明党の強い要望でもある。自民党は給付金の名称は、施しの意味合いが強いということで、変更を検討している。
追加経済対策は「生活対策」と銘打たれているように、景気後退で苦しくなっている家計へのテコ入れが最大の眼目だ。これまでの景気拡大では、輸出業種を中心に大手企業は過去最高の収益となったが、賃金やボーナスなど従業員への配分は限定的だった。中小企業も下請け代金などを抑えられており、好況を実感していない。
減税や給付金を実施するのであれば、そうした政策目的に合致していることが何よりも重要である。その上で、効果が期待できる方式でなければならない。
この二つに照らし合わせて、今回の定額給付金は支離滅裂な制度である。
定額給付金は福田康夫前内閣時代の8月末に決定された緊急経済対策に盛り込まれた定額減税から始まっている。総選挙をにらみ公明党の顔を立てたが、「金で票を買うのか」という批判があったように、評判はあまり芳しくはなかった。
その時点では、年末の税制抜本改正時に制度設計するとされ、税の専門家などによる議論の余地もあった。麻生首相の全世帯実施発言後も、「高額所得者を含めるのは筋が違う」「所得制限は必要」などごく当たり前の主張も、閣内や自民党内から出された。これを受け、麻生首相も途中、やや揺れたが、結局、早期実施にこだわった。一方で、総選挙は先送りされた。
このつけは大きい。与謝野馨経済財政担当相も指摘する社会政策的な生活支援制度という枠組みは、ばらまきの前に雲散霧消してしまった。しかも、麻生首相は景気回復を見定めたうえで、3年後をめどに消費税引き上げをお願いすると発言している。将来の負担増を考えれば、1人当たり1万2000円の給付金で追加的消費需要が生まれることは期待できない。
財源措置は、本来なら国債残高を減らす目的に使われる財政投融資特別会計の金利変動準備金だ。麻生首相は赤字国債に頼らずに政策を実施するというが、実質的に赤字国債発行と変わりない。
政策目的が不明確で、効果も疑わしく、財政にも負担をかけるような定額給付金は白紙に戻すべきだ。生活対策というのならば、低所得層などに対象を絞った減税や、大胆な非正規雇用対策を講ずるのが責任ある政治の務めではないのか。
毎日新聞 2008年11月12日 東京朝刊