日本海で試験航海中だった、ウラジオストクに司令部があるロシア太平洋艦隊所属の原子力潜水艦内で、消火装置の誤作動により乗員ら多数が死傷する事故があった。
事故の詳細は明らかにされていないが、ロシア海軍によると事故は八日夜に発生。原潜には二百八人が乗艦していた。艦体に損傷はなく、原子炉は正常に稼働、放射能漏れはないという。原潜は自力でロシア極東沿海地方に寄港したもようだ。
急がれるのは事故原因の解明だ。日本政府はロシア政府に対し、事故地点や原因、被害状況などの情報開示を求めた。当然の要請である。ロシア側は「放射能漏れはない」と回答したのみで、対応は不十分と言わざるを得ない。日本領海付近での事故の可能性もあるだけに、速やかな対応を望みたい。
ロシアのメドベージェフ大統領は詳しい原因調査をセルジュコフ国防相に命じた。検察当局は原潜の運航に問題があったとみて捜査している。
事故原因を調べている連邦検察捜査委員会の報道官は、死因は消火装置から出されたフロンガスを吸ったためとみられると述べ、中毒症状の可能性を示唆した。ロシアのメディアによると、原潜内部で火災は発生していない。本来は煙に反応して自動的に消火用フロンガスを噴出するシステムが、何らかの原因で誤作動した可能性が大きい。
ロシア海軍は事故を起こした原潜の名称を公表していない。ロシア通信は、ロシア極東の造船所で建造され、先月から日本海のロシア領海内で試験航海に出ていたアクラII級原潜「ネルパ」と伝えている。
ソ連崩壊後、財政難による近代化の遅れで軍装備の老朽化や整備不良、軍内部の士気や技術低下などが指摘されて久しい。今回の事故も消火装置の誤作動という人為的ミスの疑いが言われている。ロシア軍の変わらぬ体質がまたもや露呈した格好となった。
ロシアでは、これまでも人為的ミスや整備不足によるとみられる原潜事故が相次いでいる。同国で最悪の潜水艦事故となった二〇〇〇年の原潜クルスク沈没事故も、搭載されていた魚雷の燃料爆発が原因だった。
冷戦後、核軍縮が進む一方で、原潜が担う軍事的な役割はむしろ増大している。放射能漏れなど「核」の危険と絶えず隣り合わせにあることを直視しながら、事故の再発防止策を講じることが、乗員の死を教訓として生かす道であるとロシア当局は肝に銘じるべきではないか。
ブラジル・サンパウロで開かれていた二十カ国・地域の財務相・中央銀行総裁会議(G20)は、国際金融システムの中核的存在である国際通貨基金(IMF)・世界銀行で新興国の発言力を高めるなどの包括的改革を求める声明を採択した。併せて各国が協調して金融危機に対応していくことも確認して、閉幕した。
十四日から米ワシントンで開かれる主要国(G8)と新興国計二十カ国による、金融危機対応の緊急首脳会合(サミット)に向けた準備会合と位置付けられていた。
声明では、金融危機の実体経済への悪影響を懸念し、各国に財政出動や金融緩和を要請する一方で、格付け会社の把握を含む金融規制・監督の強化を促した。さらに、先進七カ国の金融当局などで構成する金融安定化フォーラム(FSF)に新興国が参加すべきとするなど、新興国の発言や参加の拡大が強調された。
これはG20に先立ち、初めて開かれたいわゆるBRICsと呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国の有力新興四カ国財務相会合の声明にも表れた。今回の金融危機は先進国の金融システムの欠陥が露呈したものと指摘し、IMFと世界銀行が、先進国と途上国の双方の利益を反映するよう求めた。
IMFと世界銀行は、第二次世界大戦後の世界経済の安定と復興を目指して、約六十年前に設立されており、台頭する新興国からは組織の抜本改革を求める声が高まっている。ただ、一部の先進国は改革などに慎重で、対立も残っているという。
G20を下敷きにサミット本番につなげていくことが重要だ。世界的な金融危機克服のためには、いっそうの国際協調が欠かせない。
(2008年11月11日掲載)