会見で記者の質問に不満そうな表情を見せる井戸敏三・兵庫県知事=11日午後8時31分、神戸市中央区、西畑志朗撮影
「関東大震災が起きれば、(関西経済に)チャンス」。11日、近畿ブロック知事会議でそう発言した兵庫県の井戸敏三知事はその夜、神戸市内で急きょ開いた記者会見で「震災が望ましいとは言っていない。備えが大切だと訴えたつもりだ」と釈明に追われた。発言の撤回や謝罪はなく、防災に携わるボランティアらからは「非常識」「言葉を失う」と、厳しい声が相次いだ。
「なぜ、こういう質問を受けているのか理解できない」。会見した井戸知事は何度も困惑した表情を浮かべた。
「チャンス」発言について、「つねに関西が第2首都機能となるよう用意しておく重要性を訴えた。それを関西発展のきっかけにしようという意味だ」と説明。「何万人もの被害が出るような震災が望ましいとは、全く言っていない。本意ではない」と続けた。その上で「震災からは逃げられないんだと、東京の人にも自覚してもらいたい」などと持論を繰り返した。
「被災者を傷つける発言ではないか。謝罪はしないのか」との記者の質問に対して、「なんで謝らなければいけないのか。真意を理解してください、というお願いはする」と謝罪を拒否した。
一方、知事の発言に、神戸市の阪神大震災の復興公営住宅で高齢被災者の見守り活動を続ける市民グループの東條健司代表(68)は「完全な失言。関西が政治や経済の中心になるために地震が起きて欲しいと思っているように聞こえる」と絶句した。国内外の被災地で支援を続けるNPO法人理事長の黒田裕子さんも「関東に地震が起きれば、関西がそれ見たことかと喜んでいるように聞こえてしまう」と残念がる。
首都直下地震をシミュレーションした小説「M8」などの著書のある神戸市在住の作家、高嶋哲夫氏は「兵庫は地震の悲惨さが一番、身にしみている県であり、全国から支援を受け、やっと立ち直ってきた立場。ほかの地域の被害を利用しようというのは、口が裂けても言うべきではない」と批判する。