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小説本文

     時空管理局第一広域訓練区画。
     普段大人数での模擬戦に使用されるこの区画には今、長身の女性と、少女、いや幼女と言っても過言ではない、場違いともいえる女の子がいる。
     幼女のほうが小さなツインテールの片方をいじりながら、口を開いた。

    「え…と、シグナムさん。いまさらなんですけど……」
    「どうした高町。何か問題でもあるのか?」
    「問題というか…私は新しい魔法に慣れたいだけなんです」
    「ふむ、たしかにそう言っていたな。それがどうかしたか?」
    「……どうして、それで模擬戦になるんですか」

     おずおずと、半ば諦めながら尋ねる幼女に、長身の女性は何を今更と言わんばかりの視線を送る。

    「実践に勝る訓練はない。それに昨日の午後もその新しい魔法とやらを練習していただろう。
     物言わぬ的ばかりを相手にしていては凝り固まってしまうぞ?」
    「模擬戦をやめる気はないんですね…」

     やっぱり…という感じで幼女は肩を落としながら言った。

    『なのは、そう腐らないでくれ。別に嫌がらせというわけじゃない。この機会に、君の実力を把握しておきたいんだ』

     と、突然幼女の目の前に現れたモニターから少年の声が響く。

    「黒野君…」
    『誰だそれは。ともかく、君の団体戦の実力は折り紙つきだが、個人戦の記録が少なすぎる。
     あの事件以降、模擬戦ですら個人戦をやってないだろう』
    「でも、個人戦って苦手で…。それに、シグナムさんとは相性悪いからそんな記録とっても」
    『ならなおさらだ。武闘教官を目指しているなら、苦手な状況や相手というのはなくしたほうがいい。それには経験をつむのが一番だ。
     それに、今後場合によってはヴォルケンリッターとの共同作戦もありえる。
     彼らの隊長に当たるシグナムと手合わせしておいて悪いということはない』

     少年は幼女の反論を+αして潰していく。幼女も、反抗は無駄だと悟ったようだ。

    『なに、あくまでも模擬戦だ。気負わず、いつも通りの凶悪な魔砲をぶっ放せばいい。
     アウトレンジからなら君は無敵だろう?そのために広域訓練室を借りたんだし』
    「シグナムさんが間合いを離すとは思えないけど…って、凶悪なって何!?」
    『じゃあ、シグナム、せいぜいもんでやってくれ。結界の心配は無用だ。スターライトブレイカーでもない限り壊れない』
    「ああ、心得た。そんなもの使う暇など与えん」
    「無視!?」
    『だろうね。ああ、なのは、ちゃんと非殺傷設定にしておけよ』
    「また無視された!?っていうかなんで私にだけ!?」

     長身の女性の返答に満足したのか、少年を映すモニターは余計な一言を残して中空に消えた。幼女の声など聞こえんと言わんばかりのガン無視だ。
     あとには、静かにたたずむ長身の女性とぶつぶつ言う幼女が残される。

    「なんだか最近のクロノくん私に冷たい…」
    「さて、高町なのは」
     こっちもガン無視だ。
    「は、はい!」
    「先ほどクロノ執務官が言っていたが、私としてもお前の実力を知っておきたい」
    「……」
    「正直なところ、我々の中では、お前が一番危うい」
    「我ら守護騎士は、いささか接近戦に傾倒してはいるが、超長距離でもなければどの距離でも戦える。
     得意の接近戦に持ち込めるだけの機動力や突撃力もある」
    「テスタロッサは、好戦的な性格が接近戦を取らせるようだが、高い機動力と多彩な技を持ったオールラウンダーだ」
    「クロノ執務官も然りだ。あれほど魔法の種類と使い方を熟知していれば、あらゆる状況に対応できる」
    「主はやては基本的に砲戦向きだが、夜天の書に蓄えられた幾多の魔法はそれを補って余りある」
    「しかし、だ。高町なのは」

     真剣な目が、いまだ幼い少女の瞳を見据える。

    「お前の魔法は砲戦に特化しすぎている。近づかれては何もできない」
    「硬い防御があっても、機動力が低ければ削られて終わりだ」

    「…そう、でしょうね。自覚はあります。あの事件でも、はやてちゃんのことがなければ、きっとヴィータちゃんに負けていました」

     幼い瞳は、しかしその視線をしっかりと受け止めている。

    「前線が常に守られている状態ならばそれもいい。むしろ、砲戦に特化しているお前は理想的な存在だ。おそらくは攻撃の要となるだろう」
    「しかし、前線とは崩れるものだ。少なくとも、戦場ではその可能性が常に付きまう」
    「そして、戦線を立て直せても、攻撃の要を失った陣営はいずれ負ける」
    「そもそも、要を失うことは士気の低下を加速させる。戦線を復帰させることすらできないだろうな」
    「お前はそういう存在だ。まして、武闘教官となるならその意味合いはさらに重くなる」
    「……」

     と、突然大きな瞳を見据えていた目が和らぐ。
     幼女もそれを感じ、その意味を求めて長身の女性を見つめた。

    「とは言っても、あのヴィータを退けたお前を侮っているわけではない。
     技術こそ未熟だが、ヴィータのパワーは規格外だ。退けられるものなどそうはいない。主はやてのことがあったとはいえ、な」

     そこまで言うと、再び瞳は真剣味を帯びて幼女を見据える。
     そのまま身に着けたネックレスを掴み、一気に引き抜いた。
     そこにいるのは、軽装の甲冑を身に着け、戦友たる剣を携える、歴戦の騎士だ。

    「ただ、一度この手で測っておきたい。いずれ、お前の元で動くかもしれんしな」

     そう言い、気高き騎士は絶対の自信を持って構える。

    「……わかりました」

     幼女はそう答えると常にそばに置いている相方を取り出し、投げ上げる。
     お決まりとなった相方の掛け声とともに、心を切り替える。
     杖の形をした砲身を手に取るのは、先ほどまでの幼女ではない。時空管理局が誇る白き悪魔、最悪の魔砲師だ。

    「全力全開で、お相手させてもらいます」

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