三浦和義の自殺は“勝ち逃げ”である

村崎 十月も賑やかだったねえ。一日にいきなり大阪のビデオ喫茶で四十六歳の男が放火して、十五人もの人が殺されたっていう大事件があったんだけど……(★1)

唐沢 そのあと、三浦和義の自殺とか世界同時株安とか立て続けに起こったんで、何だか霞んでしまった感じだよね。

村崎 アキバ事件の加藤智大ですら七人だったんだから、こりゃ、今年最大の無差別殺人犯だったはずなんだけどな〜。まあ、この犯人自身があまりにもヘタレのダメダメで、電気関係のメーカーに勤めていたんだけど希望退職に応じて退職金一千万円もらって、それから親が死んで遺産が五千万円も入ったのに、ギャンブルにのめり込んで女に入れあげて貢いだりして二年間で財産を全て使い果たしてしまったんだと。それで消費者金融で借り入れしまくって、借金が膨らんで家賃も払えなくなって戸籍売ったり自己破産したあげく、生活保護を受けるようになって、その金でまたギャンブルやって負けちゃう自分が惨めで生きてるのが嫌になったらしい。

唐沢 絵に描いて額縁に入れて床の間に飾りたくなるようなダメ男っぷりですな(笑)。

村崎 当然の成り行きで、たまに自殺も考えていたようなんだけど、それもすっぱり実行する覚悟も根性もなくて、たまたま友人と入店したビデオ喫茶の個室で一人になったら急に鬱状態になって、発作的に自殺するつもりで火をつけたんだとさ。ところが煙が苦しかったので自殺しようとしたことも忘れて思わず外に逃げ出して助かったと(泣)。そんなわけで十五人の被害者に対してはまったく殺意がなく、後で死んだ人の数を聞いてビックリしたらしい。

唐沢 こうまで行き当たりばったりだと、犯人の心理を推測するなんて行為がバカバカしくなってくるね。ロバート・レスラーでもサジを投げるだろうな。まあ、確かに自殺ってのは、いざやろうと決心しても、最後の一歩はなかなか踏み出せないらしいからね。そう考えると、三浦和義ってのは、見事な死に様を見せてくれた(★2)。最期まで世間を煙に巻いてくれたよね。

村崎 今度は誰の後追い自殺なのかと思ったよ、オレ(笑)。

唐沢 さすがに三浦クラスになると、hideの後追いはしないと思うよ(笑)。

村崎 確かに、家族や支援者たちは全員「三浦和義は絶対に自殺なんかしない」と思っていたようだけど、そういう自分にごく近しい人間にすら、本当の自分を隠して本心を見せなかったってことなんだろうな。もちろん「あれが本当の自殺だとしたら」というカッコ付きの話だけど。

唐沢 演劇性人格障害みたいなもんだから、他人どころが自分相手にすら、別の人格を作り出すことで欺いていたんじゃないかって気がする。

村崎 そういう意味では本物の役者。あらゆる方面に対して“三浦和義”というキャラクターを演じきったんだな。だとしたら天晴れだよ。

唐沢 まあ、殺人罪に問われなくても、共謀罪ということで起訴されれば、懲役二十年以上は確実に食らうだろうからね。六十過ぎの人間にとっては、これはツラいよね。

村崎 それにロスの刑務所にぶち込まれるとなりゃ、「おお、ケツの締まりの良さそうな東洋人が入ってきたぜ」ってことで、寄ってたかってカマ掘られまくって尻穴が拡がりすぎてウンコたれ流しの運命になることは確実だろう(笑)。七十、八十歳過ぎても生きてる限りカマ掘られ続けることを考えたら、そりゃ死にたくもなるかもなあ。

唐沢 年季の入った通のホモに言わせると、肛門性愛の最高の快楽は六十歳以上の年寄りとのソレらしいってことだそうですから。“練れてる”とかいってね(笑)。それにしても、マスコミ的には、最期まで美味しい人だったね。

村崎 ああもう、三浦和義から受けた莫大な恩恵を考えたら、マジでこれは、各テレビ局・新聞社・出版社が総結集して、盛大な“マスコミ葬”を行うのが筋だろ(笑)。実際はどうたったかなんてことは完全に別として、彼から受けた恩を忘れちゃなんねーぜ、マスコミは。

唐沢 半ば三浦和義に食わせてもらっていたような人って、業界内に相当いると思うよ(笑)

村崎 実際、オレは、三浦が本当に犯人だったのかどうかなんてことは徹底的にどうでもいいことなのよ。別にオレの身内が殺された訳じゃないし、オレが被害を被ったわけじゃないし、マスコミが飯のタネにしてたように、オレにとっての三浦和義は「八〇年代のワイドショー視聴時の“娯楽のタネ”」にすぎなかったんだから(笑)。ただ、この人は「犯罪界のスタア」って感じで華があって、この人の周辺は見ていてまったく飽きなかったし、とにかく「いままで楽しませてくれてありがとう」という感謝の念しかありませんなー。

唐沢 だから今回は、“逃げ切れなかったための自滅”どころか、三浦の完全な勝ち逃げなんだよね。結局、疑惑の真相は明らかにされないまま、自分のキャラクターを全うして自分で幕をおろした行為だったんだから。

村崎 教訓的には、もう分かりきってることだけど、我々にロス市警の恐ろしさを再認識させてくれたことだろうね。マジであそこはおっかない場所で、今回の三浦自殺報道についてのコメントで、オーラの美しい美輪明宏サマが「あのへん(ロスだのニューヨークだの)は一流ホテルの部屋でもすぐにモノがなくなるところだから」とかスポニチのエッセイでボロクソに書いてたくらい(笑)、全てにわたって信用なんねえっていうか、途方もない悪の華が咲き乱れる呪われた地獄の街みたいだし。

唐沢 『刑事コロンボ』なんかでもよく描かれることなんだけど、今の日本の格差社会なんか可愛く思えるくらい、超大金持ちとド貧乏の生活水準の差がすさまじい街なんだよね。オレ、十年前ぐらいに雑誌の仕事で、ロスのゲイ・パレードの取材に行ったことがあるんだけど、取材費もあんまりなかったから、メキシコ人と東洋人しかいないホテルに泊まって、その周辺を一日中うろついていたりしていたのね。

村崎 ヤバいんじゃないの、それ(笑)。十年ぐらい前なら、ギャングの抗争もまだ激しかった頃でしょ? それよりもっと前の、デニス・ホッパーが監督した映画『カラーズ』が撮られた頃から、「ロスは激ヤバ」ってさかんに警告されてたけど。

唐沢 急な仕事だったんで、着の身着のままで行ったもんだから、現地の中国人の一人だと思われたのかもしれない。これがいかにも観光客らしい格好で行ってたら、ホントに危なかったよ。昔からあそこはすさまじい犯罪都市で、住民もそれが当たり前みたいに思っている節があって、ロスの土産物屋に行ったら、O.J.シンプソンが女房の生首を持って笑っている人形が売られていて、仰天したことがあったもの(笑)。実際、黒人もプエルトリコ人も、ハリウッドの持つオーラに吸い寄せられて、あそこに行けば“夢”が買えるかもしれない、という一億分の一くらいの可能性だけに望みをつないでやってくるんだな。だから当然のこと、食い詰めものだらけの街になる。

村崎 オレに言わせりゃ、今度の三浦首吊り事件の真相は、関わったのが「ロス市警」ってことだけでもう完全に納得できるんだわ。去年からもう何度もこの対談で取り上げてるけど、『ブラック・ダリアの真実』(ハヤカワ文庫NF)を読めば、三浦のああいう死に方は完全に想定の範囲内も範囲内、当然の結果とさえ思えるわ(笑)。あんなにも権力との癒着と賄賂と不正の数々を繰り返してきた歴史と伝統を持ったクソ爛れた組織が、いまだに堂々と「警察」の看板出してるんだから、アメリカはオソロシイ国ぜよ、まったく。三浦だって、(仮にクロだったとしても)事件当時にロス市警に対して納めるべきものをちゃんと納めておけば、こんなことにはならなかったろうにねえ。帰国したときにロスの悪口をさんざん言ったりしたもんだから、向こうも怒っちゃったんだろうね。

唐沢 腐敗した組織こそ、そこをつかれたりすると怒るもんだからね。

村崎 でもさ、アメリカ人ってもうちょっと、さっぱりしている連中のはずなんだよ。日本人って罪を犯したと目された人間については、たとえそれが冤罪であってもいつまでも白い目で見がちなところがあるんだけど、アメリカ人ってのはどんな凶悪犯罪者であっても一度無罪になったら、あとは自分達の隣人みたいに扱ってくれるようなところがあるでしょ。裁判で有罪にならない限りは、どんなに怪しい人間でも「良き隣人」として扱うのが筋って感じで。

唐沢 日本人にとっては、犯罪に関係すること自体が“汚れ”であり、それに触れてしまったことが罪であって、実際にやっていたかどうか、なんてことは実はどうでもいいという考え方がある。まさに『疑惑の銃弾』なんて記事、確実な証拠もないのに、状況だけで三浦をあそこまでリンチ的に追い込んだわけでしょう。ありゃ、もし自分がその立場に立ったらたまったもんじゃないと思う。

村崎 今度のサイパンでの逮捕・拘留にしても、日本は国として積極的に助けようとはせず、「あんな変態、どうでもいいや」って感じだったもんな。まあ、確かに伝え聞くところによると、真性の変態だったらしいんだけど(笑)。

唐沢 地下室で乱交パーティを開いている写真とか、当時、山のように流出したもんね。三浦の全裸写真なんか正直、見たくもなかったけど(笑)、変態と犯罪は関係ないじゃん!

村崎 あれだって、女房とも同意の上で一緒に参加して楽しんでやってることなんだから、個人的な趣味の範囲内として赤の他人がどうこう言うような筋合いの事じゃないと思うんだけどね。あ、オレはもちろん変態の味方だから、基本的に変態の肩を持つよ〜(笑)。

唐沢 法治国家になりきれない、日本の弱点だよね。いったん犯罪者だと決め込んだから、あとはそいつのプライバシーも何もないも同然、人権すら否定されてしまうってのは。まさに空気なんだな、全てを決めるのは。

村崎 別に他人と趣味の違う変態だからって、いいじゃねえかよ。それを他人に強制しないで個人で楽しむ分には何の問題もねえだろうって。オレは変態への不当な偏見撤廃のためにも、「こいつはこういう変態なんだから、あんな犯罪を犯したんだ」みたいな決め付けには断固反対したいね! 結局、世間がそういう見方をするもんだから、三浦は真実を誰にも明かさないまま、天国に行っちまったわけだろ? 

唐沢 まあ、さすがに行ったのは地獄の方だと思うけどね(笑)

★1 大阪個室ビデオ屋放火事件

 十月一日午前二時五十五分ごろ、大阪市浪速区難波中、鉄筋7階建ての雑居ビル「檜(ひのき)ビル」1階の個室ビデオ店「試写室キャッツなんば店」(島本和典店長)から出火。同店約220平方メートルのうち約37平方メートルと天井や壁を焼いた。中にいた男性客15人が逃げ遅れて死亡したほか、男性9人と女性1人の計10人がけがをした。うち1人が重体、2人が重傷。浪速署捜査本部は、放火と殺人、殺人未遂の疑いで、火元とみられる個室を利用していた大阪府内の40代の無職男を逮捕した。
 男は捜査本部の任意の調べに対し、当初「たばこを吸った。(出火当時は)寝ていた」と説明していたが、その後「火を付けた」と認めたという。捜査本部は詳しい動機を調べる。査本部は遺体の身元確認を急ぐとともに、実況見分して状況を詳しく調べる。総務省消防庁は原因調査のため職員7人を派遣した。
 捜査本部や同市消防局によると、同店は個室スペースに32室が並んでおり、当時は客26人と島本店長、店員2人の計29人がいた。客のほとんどが寝ていたとみられる。
 死亡した15人は多くが個室内で見つかり、数人が通路に倒れていた。やけどの程度は軽く、死因は煙を吸い込んだことによる一酸化炭素中毒や気道熱傷とみられる。
(共同通信10月1日の記事より引用)

▲ 記事に戻る

★2 三浦和義自殺

 81年の米ロサンゼルス銃撃事件に関与した疑いで米自治領サイパンで2月に逮捕された元会社社長、三浦和義容疑者(61)=日本では無罪確定=がロサンゼルス市内で自殺を図り、死亡した。ロサンゼルス市警から10月10日午後10時(日本時間11日午後2時)ごろ、現地の日本総領事館に連絡が入った。
 三浦元社長は同日夜、ロス市警本部の留置場で、Tシャツで首をつったという。意識不明の状態で係官に発見された。近くの病院に搬送されたが、午後10時ごろ死亡が確認された。三浦元社長は独房に入っていたが、ロス市警によると、巡回は30分ごとに行うことになっており、発見の10分前の巡回では異状がなかった。遺書は見つかっていないという。
 三浦元社長は10日早朝、サイパンからロサンゼルスに移送された。週明けの14日に起訴前の罪状認否のためロサンゼルス郡地裁に出廷する予定だった。 三浦元社長の遺体はロス郡検視局に移される見通しで、遺族や総領事館員が遺体と対面するのはその後になる。
 三浦元社長は10日午前11時ごろから約15分間、ロス市警の留置場で在ロサンゼルス総領事館の領事と接見。領事の問いかけに「元気です」と答え、読書をしたがっていたが、認められなかった。接見時の服装は移送時と同じで、Tシャツ姿ではなかったという。領事は「自殺するようなそぶりは全く見せておらず、非常に驚いている」と語った。
 三浦元社長は妻の一美さん(当時28)を殺害したとして日本で起訴されたが、03年に無罪が確定。今年2月、同じ事件で殺人と共謀の容疑でサイパンで逮捕された。
 三浦元社長の弁護側は、同じ罪で2度裁けない「一事不再理」の原則に反する逮捕だとして、逮捕状の取り消しを請求した。ロス郡地裁は先月26日、殺人罪については一事不再理を認めたが、共謀罪は弁護側の主張を退け、有効とする決定を出し、三浦元社長は10日、ロスへ移送された。
(朝日新聞10月12日の記事より引用)

▲ 記事に戻る

次の記事へ