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社説

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定額給付金―もう断念して出直しを

 経済対策の目玉に掲げた定額給付金の支給の仕方をめぐって、麻生政権が迷走している。

 麻生首相が「全所帯に実施する。規模は2兆円」と明言してから10日あまりがたつ。なのに「全所帯」に高額所得者は含まれるのか、含まれないならどこでどう線を引くのか。政府与党内の意見はなかなかまとまらない。

 「全所帯にあまねく」なのか、それとも「所得の低い所帯のために」なのかは制度の根幹の問題だ。そこが定まらないのでは、これが何のための政策なのかを疑わせる。

 首相はきのう、高額所得者には自主的に辞退してもらう方式がいいとの考えを示した。所得制限を設ける立法の手間を省くためのようだが、いくら緊急性を強調しようと、2兆円もの税金を使うのに、そんな泥縄が許されるだろうか。

 なぜ、こんなことになったのか。

 首相自ら認めたように、麻生政権の使命は早期の解散・総選挙で「ねじれ国会」を打開することにあった。政権を譲った福田前首相も、与党も、そう考えていたに違いない。だからなのだろう、この政権には選挙対策への構えはあっても、腰のすわった政策を打ち出し、実現させる用意が欠けていた。

 首相の解散先送りで、事態は一変した。選挙前に花火のように有権者受けのする政策を打ち上げて、具体的なつじつまは選挙に勝ってから合わせる。そう踏んでいたのに、いきなり政策を具体化する必要に迫られたのだ。

 定額給付金に熱心だった公明党に対し、自民党内には消極論も根強かった。経済効果に疑問があったし、選挙向けの露骨なバラマキととられることへのためらいもあったからだ。

 実際、内閣府は次のように試算していた。所得税や住民税を2兆円減税しても、その4分の3は貯蓄に回り、消費にはつながらない。実質国内総生産を引き上げる効果はわずか0.1%。

 もちろん、最近の物価上昇や景気の後退を思えば、「4人家族で約6万円」(首相)という一時金を、ありがたいと思う人は少なくあるまい。

 だが、朝日新聞をはじめとする報道各社の世論調査では、6割前後の人が定額給付金を「必要な政策と思わない」などと否定的に答えている。

 膨大な財政赤字を抱え、使える財源は限られている。狙いを絞り、効果のあるものにしなければ、借金をつけ回しされる次世代に顔向けできない。そんな考え方からではないか。

 景気浮揚は重要だが、社会保障の立て直しや雇用対策、教育や子育て支援など、本当の安心につながる分野への税金投入を国民は求めているはずだ。

 今からでも遅くはない。政府与党はこの給付金の構想を断念し、頭を大胆に切りかえてはどうか。

G20サミット―危機脱出にまず全力で

 米国発の金融危機と世界同時不況にどう立ち向かうか。今週末に主要20カ国(G20)の首脳がワシントンに集まって緊急会合を開く。

 その準備として、G20の財務相・中央銀行総裁会議がブラジルのサンパウロで開かれ、論点を整理した。

 国際通貨基金(IMF)や世界銀行の機能を強化し、新興国の発言力を高める。甘い金融監督と規制が世界的なバブルを招いたのでそれを強化し、国境を越えた金融ビジネスに目を光らせる体制を整える。景気悪化に対処するため、各国は財政・金融政策を総動員する、といった内容だ。

 これには二つの問題意識が含まれている。ひとつは、いま起きている危機の拡大をいかに防ぎ、危機から脱出するかということ。もうひとつは、危機を二度と起こさないために今後なにをしたらよいか、という問題だ。

 直面する危機の克服にまず正面から取り組む強い決意を表明し、次の危機の防止策は腰を落ち着けて議論していく。G20サミットでも、このように論点を分けて討議してもらいたい。

 9月に始まった世界金融のパニック状態は幸い小康を得ているが、再び悪化する危険は十分にある。実体経済は金融危機が波及して日を追うごとに深刻化しており、両者が悪循環をともなって進行する世界恐慌型の不況圧力が高まっている。こうした事態へ対処することが、まず最優先になる。

 それには、各国が実情に応じて財政・金融面から内需拡大を図る。各国が自分勝手に輸出拡大へ向かうと、貿易摩擦と保護主義による共倒れの恐れも出てくる。内需拡大で足並みをそろえることが欠かせない。

 外貨不足に陥った新興国や途上国を救うため、IMFの資金提供力を高めることも緊急に必要だ。それには、貿易黒字や外貨準備を豊富に持つ新興国にも参画を求めるべきである。

 一方で、国際通貨制度とIMFの基本的な改革や、金融規制・監督の強化といった「次の危機」の防止策は、時間をかけて検討する。

 10年ほど前に起きたアジア通貨危機以来、欧州や新興国がこれらの防止策を主張して議論を重ねてきたが、ドルを基軸通貨とし規制を嫌う米国が難色を示し、前に進まなかった。「この機会に」と意気込む気持ちは分かるが、ここで性急に改革を迫って米国との食い違いを表面化させては、当面の危機対策を危うくしかねない。

 今回の危機の責任は米国にある。危機脱出にめどがつけば、米国の嫌う改革へも議論を進められる。

 米次期大統領のオバマ氏は米国経済のてこ入れに決意を示しているが、世界経済のあり方について明確には語っていない。G20サミットの機会に、彼のビジョンを聞きたいものだ。

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