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AVSの達人
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マイクロフォーカスX線CTを用いた歯の三次元形状モデルの作成   ~ Vol-Rugleを用いた画像解析とデータの汎用化 ~
愛知学院大学 加藤彰子
愛知学院大学 大野紀和
(株)メディックエンジニアリング 谷尻豊寿
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 歯科医師にとって、ヒトの歯の形態を解剖学的に深く理解することは、その機能や疾患との関連から非常に重要である。 しかし、歯の外側の情報から内部の構造を三次元的にイメージすることは容易ではない。
 我々はヒトの歯を産業用マイクロフォーカスX線CT (μCT)で撮影し、得られた三次元情報から歯の形状モデルを作成する研究を行っている。 さらに、歯科医学の研究・教育の基礎的資料として活用するために、汎用性のあるデータ形式で保存しておくことが必要であると考えている。

試料について
 試料として、上顎右側第一大臼歯、下顎右側第一大臼歯、下顎右側第一小臼歯の3本を選択した。 外観とX線写真像を下図に示す。


 上下顎の第一大臼歯は全歯種の中で咬合負担能力が最も大きく、そのために、 歯根は発達し「多根歯」となっている。また、咬頭数は4?5咬頭と小臼歯に比べて多い「多咬頭歯」である。
 下顎第一小臼歯については、通常歯根は単一のことが多いが、稀に歯根近心・遠心面に見られる縦の溝が深く貫入し、 歯根が二分されて2根を有するものがある。
 以上、複雑な歯根形態を有するものを選択した。

μCTによる撮影
 データの収集には島津製作所のマイクロフォーカスX線CT(SMX-225CT)を使用した。 本装置は産業用途に特化したCT装置であり、医療用のCTとは構成が異なる。医療用CTでは、 X線管球とX線検出器が患者の周りで回転し、X線透過データを収集・計算する。一方、本装置は下図に示すように、 X線発生器と検出器の位置は固定されていて、試料を回転させる仕組みとなっている。X線はX線管球より水平に放射され、 試料のX線透視像をあらゆる角度から捉えてコンピュータに蓄積し、断層像を再構成計算して表示する。 さらに、ターンテーブルの位置と検出器の位置を自由に設定でき、 測定対象物の大きさや解析の目的に応じて幾何学的倍率を設定することが可能である。



 再構成後の画像データは島津のSMXシリーズ独自の形式で、16bitグレースケール形式である。 また付属のソフトウェア(Xray Image Viewer)が有する機能を使って、Bitmap、JPEG、TIFF16bit形式への変換が可能であり、 これらの形式に対応しているソフトウェアであれば、断面画像の読み込みが出来る。 ここで、Bitmapは階調が8bitに落ちてしまいJPEGは圧縮によってデータの損失があるため、TIFF16bitを推奨したい。

Vol-Rugleによるボリュームデータの取り込みと形状の抽出
 次に、μCTにより得られた画像データをVol-Rugle for MicroAVS(メディックエンジニアリング)へ取り込み、そこから、 エナメル質、象牙質、歯髄に相当する形状の抽出(セグメンテーション)を行なう。
 Vol-Rugleは、多段階の階調をもった濃淡画像から、特定範囲の濃度領域を2値化したものをラベルとして区別できる。
 まず始めに『歯全体』の濃度領域を指定してラベル1に割り当てる。
 次に、『エナメル質』に相当する濃度領域を指定してラベル2に割り当てる。
 さらに『象牙質』の形状を抽出するために、「ラベルの演算」機能を利用して、ラベル1からラベル2を差し引いて、 ラベル3に割り当てる。すると、歯全体からエナメル質のみを除くことが可能となる。



 次に『歯髄腔』の抽出をする。
 Vol-Rugle for MicroAVSが有する大変有効なツールとして「探索型塗りつぶし」機能がある。 これは任意の開始座標から同じ濃度領域の部分が自動に塗りつぶしされるというものである。 この機能を用いて歯髄腔を抽出したあと、細かい部分については手作業での修正を行なう。
 このように、『エナメル質』、『象牙質』、『歯髄腔』が分離抽出され、 それぞれを一つのファイルとして独立させることができたので、それらのファイルを MicroAVS (KGT)独自の形式である「Fieldデータ」形式としてエクスポートする。



MicroAVSによるfieldデータの取り込み
 これまでの操作で、一つの歯から形状抽出が行なわれ、それぞれが独立したデータとなった。 次に、なるべく多くのアプリケーションで読み込み可能となるように、汎用性の高いファイル形式で保存する。

 Fieldデータ(*.fld)形式で保存されているエナメル質、象牙質、歯髄腔のデータをそれぞれ MicroAVSに読み込み、 バイナリSTL形式に変換する。メモリが許容すれば、STL形式に変換されたデータをいくつでも読み込むことができるので、 バラバラのデータを重ねて表示することが可能である。

 以上の操作により、それぞれの歯についてSTL形式に変換された『エナメル質』『象牙質』『歯髄腔』の各データを読み込み、 色と質感の設定を行ない可視化された画像を下に示す。



汎用データの活用
 このようにして作成された歯の三次元形状モデルは汎用性の高いフォーマットで保存しておくことによって、 さまざまな活用法が考えられる。
 DXF(Drawing exchange Format)はCADやCG(Computer Graphics)における共通フォーマットとして広く利用されていて、 筆者はDXF形式の形状モデルをダウンロード可能な形で公開している( http://www.agu.ac.jp/~a-kato )。 また、Shade8.5で読み込んで作成したQuickTime Virtual Reality(QTVR)形式の画像を任意の方向から閲覧できるようにしている。 さらに発展して考えられることは,STL形式であれば光造形等の三次元造形装置で扱うことができるので、 本データを利用して根管治療のための模型を作製することも可能となる。
 GFA (Geometry Flipbook Animation)ファイルは MicroAVS が持つアニメーション用のデータフォーマットであるが、 この形式へ変換することにより、マウスの操作で任意の方向から観察することが可能となる。 この形式は各フレームを画像イメージではなく形状データの形で持つという特徴がある。 また " 3D AVS Player " で再生することができるので、 こちらも視覚教材としての利用が可能となる。
 歯の形態を三次元形状データとして保持する際に、解剖学的に特徴のある形を保持したまま、 いかにデータの軽量化をするかということが今後の課題である。



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