特集:
Sony BMGコピー防止機能付き音楽CDが招いた大問題
トロイの木馬などを誘発する「rootkit」で
パソコンセキュリティの低下を招き、世界レベルの訴訟へ

●毎年年始に米国ネバダ州ラスベガスで行われる世界最大の家電見本市「International CES(Consumer Electronics Show)」。今年の初日の基調講演はソニーのハワード・ストリンガー会長兼CEOだった。同社初の外国人トップの講演ということで注目されていたが、講演の冒頭、本題に入る前の枕の話として、ストリンガー会長は「我が社はSony BMGの件で消費者からひどい懲罰を受けることとなった」と発言し、聴衆の関心を集めた。

●「Sony BMGの件」とは、昨年末、欧米でソニーの子会社であるレコード会社Sony BMGに対して頻発している一連の訴訟問題のことを指す。総合家電企業であると同時に世界有数のエンターテイメント企業としての顔を持つソニーがなぜ、音楽事業でこのようなトラブルを起こしたのか。ソニー本体をも揺るがす大問題となった「懲罰」に至る過程と、その背後にあったSony BMGの思惑を解説しよう。

文/津田 大介(ネオローグ)
2006年1月31日

2006年1月5日~8日、米国ラスベガスで開催された「International CES(Consumer Electronics Show)」の基調講演で話すソニーのソニーのハワード・ストリンガー会長兼CEO。講演の冒頭、ストリンガー会長は「我が社はSony BMGの件で消費者からひどい懲罰を受けることとなった」と発言し、聴衆の関心を集めた。
(写真提供:AFP=時事。なお同写真およびキャプションについて、時事通信の承諾なしに複製、改変、翻訳、転載、蓄積、頒布、販売、出版、放送、送信などを行うことは禁じられています)

 2005年10月31日、米国の著名なプログラマーであり、ライターとして複数の書籍も執筆しているMark Russinovich氏が、自身のブログで「Sony BMGがリリースしている音楽CDに付属しているコピー防止技術『XCP』が、ウイルスなどの一種である『rootkit』に類似した技術を用いている」と指摘した。これがすべての始まりだった。

 その翌日、フィンランドのセキュリティ・ベンダーであるF-Secure社も、自社のブログ上でXCPによるrootkitの不正インストールを確認し、事実関係を公表した。この情報は瞬く間にネットを通じて世界中に広まり、その2カ月後には全世界を巻き込んだ訴訟問題へと発展することとなる。

 「rootkit」とは一体何か? 一般的にコンピュータに対して不正侵入やデータの破壊などを行うクラッカーが侵入した証拠を隠すため、OSそのものを改ざんし、再度侵入しやすくする“裏口”(バックドア)を作るソフトのことを指す。

 Mark Russinovich氏とF-Secure社は、rootkitがSony BMGが発売したコピー防止機能付き音楽CD(海外では「Copy Protected CD」、日本では「コピーコントロールCD(CCCD)」と呼ばれることが多い。以下では「CCCD」として統一して使う)内に密かに隠されており、「ユーザーがパソコンにXCPのCCCDを挿入して、専用プレーヤーソフトをインストールすると、知らない内にrootkitがインストールされる」という事実を解析したのだ。

回収・交換扱いになったXCPを含むCCCDの一例。Sony BMGが回収を決めた11月中旬頃までは、日本の輸入盤を扱うCDショップや、ネット通販のAmazonなどで普通に販売されていた。日本のレコード会社がディストリビューションを行った輸入盤に関しては、CCCDであることを示すシールが貼られているので分かりやすいが、並行輸入のものに関しては分かりにくいケースも。XCPの全52タイトルやrootkitのアンインストール情報はソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(SMEJ)のサイト上で確認できるようになっている。日本でのXCP入りCCCDの販売実績は約5万枚とのこと。

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