かつて訪れた都市に三十年の歳月を経て降り立ったときの印象は、おそらく二種類あるのではないか。「ずいぶん変わったものだ」「昔のままだ」
国際新聞技術研究協会(IFRA)のイベントに出席するため再訪したオランダの首都・アムステルダムの印象は後者だった。赤レンガの古めかしい中央駅、とんがり屋根の家屋が運河に沿って連なる十七世紀の町並み、旧王宮前の広場。何もかも昔のままだった。
だが、都市基盤の整備は着実に進んでいた。アムステルダムの人口は岡山市を五万人ほど上回る約七十五万人だが、周辺を含めた大都市圏人口は約二百二十万人になる。地下鉄が四路線開通し、さらに一路線の建設が急ピッチで進んでいる。名物の路面電車とともに移動がずいぶん効率的になった。
自転車専用道も整備された。街路は自動車、路面電車、自転車、歩行者の四つの専用道に区分されている。ところが、この自転車道がくせ者で、歩道と共有している日本のものと同じとでも思っていたなら、とんでもない災難に遭うから要注意だ。自転車が音もなく風を切って猛スピードで行き交う。これも自転車の一種なのだろう。ボブスレーのような形をした足こぎの乗り物まで突っ込んでくる。
変わらないように見えても三十年の歳月。歴史的町並みを頑固に守りながらも、今に生き続ける国際都市としての機能を高める政策を地道に進めてきたに違いない。そこが四百年を超えて栄えてきたこの町の底力なのだろう。
(メディア本部・佐々木善久)