紅葉狩りや温泉などに、ぶらりと出かけたくなる季節である。初めての土地となれば、欠かせないのが地図だ。
カーナビなどの普及で迷わずに目的地へ行ける時代になったとはいえ、地図の価値は捨て難い。周囲の風景と見比べながらたどり着けば、便利さを上回る満足感がある。
江戸時代などの古地図はさらに趣深い。先日、岡山大文学部の倉地克直教授による楽しい見方の講演があった。地図は「見る」のでなく「読む」のだという。個性豊かな古地図から作者の意図や当時の様子を読み解くタイムスリップが醍醐味(だいごみ)というわけだ。
例えば、美作から旭川や吉井川の川筋を中心に瀬戸内海に至る絵図。大胆な川の描き方から、一七一〇年ごろの様子を描いた船輸送目的の地図とみる。倉安川は「津田川」と記している。手がけた津田永忠にちなんで当時そうとも呼ばれていたのか。一枚の地図から想像が膨らんでいく。
現代に戻ると気掛かりな地図がある。次期衆院選をにらんで与野党が競う「政治地図」だ。いずれも目的地は明るく描いているものの、道筋は依然霧の中である。
随所に甘い誘いがちりばめられ、うかうかしていると思いもよらぬ場所へ引き込まれてしまう。冷静に注意深く目をこらし、作者の思惑を読み解いていかなければならない。