岡山県教委が、報道機関から独自に取材を受けた際に社名、記者名、取材内容を文書にし、報道される前に県議会文教委員会の県議へファクスで送信していたことが明らかになった。県教委は門野八洲雄教育長が陳謝し、中止を決めた。報道の自由の観点から、見過ごすことができない問題である。
山陽新聞社など県内の新聞、放送、通信社十八社でつくる岡山県報道責任者会は、重大な問題をはらんでいることを指摘し「前代未聞であり、まったく容認できない」として抗議の申し入れ書を門野教育長あてに提出した。通知は今後一切行わないこと、これまでの通知文書はすべて廃棄することの二点や、問題の経緯に関する詳しい説明などを求めた。
県教委の説明によると、今年五月、文教委員の一人から「(報道などで)公にされる情報があれば文教委員にも知らせてほしい」との要望を受けた。電話での取材を含めA4判用紙一枚にまとめ、原則として取材を受けた当日に委員の自宅や事務所にファクスしたとしている。
「煩雑だから」と断った一人を除き、これまでに送信されたファクスは合わせて三十六件になるという。記者クラブには知らせていなかった。
一方、県議会文教委員会の遠藤康洋委員長は「委員会としてマスコミの取材内容を文書にして提供するよう求めた事実はない」と話している。
県教委は問題が発覚した当初に開いた記者会見で「議会との情報共有が狙い」と説明し、報道の監視に当たるのではないかとの指摘に対しては「なぜ問題なのか理解できない。そうした指摘は心外だ」と述べた。しかし、その後、会見した門野教育長は「取材内容を他者に提供するのは問題がある。おわびしたい」と述べ、中止を明言した。
取材情報が外部に漏れることによって、何らかの圧力がかかる可能性は否定できない。報道機関が制約なしに権力をチェックすることによって国民の知る権利が保障され、民主主義社会を支えることができる。
県教委については今夏、これまでの教員採用試験の結果に関し、県議や国会議員の秘書らからの問い合わせに、受験者に通知が届く前に個別に合否を伝えていたことが明らかになった。教育委員会は、教育の中立性を保つために、一般の行政組織とは別になっている。県教委の姿勢に疑問符がついた。
そして今回、報道の自由の根幹にかかわりかねない情報通知問題が起きた。県教委の猛省を促したい。
過去の中国侵略などを正当化する論文を発表した田母神俊雄前航空幕僚長の問題が広がりをみせている。新たに就任した外薗健一朗空幕長が、同じ懸賞論文に応募した航空自衛官が九十四人に上ると明らかにした。当初の防衛省の発表では七十八人とされていた。
更迭された田母神氏については定年退職の措置が取られた。自分で辞める意思がなく、懲戒処分には時間がかかるためと浜田靖一防衛相は説明したが、懲戒処分としなかったことに異論も出ている。参院外交防衛委員会は田母神氏を十一日に参考人招致する予定になっている。
田母神氏と同じ懸賞論文に多数の航空自衛官が応募していた点は考えねばなるまい。航空幕僚監部教育課が「自己研さんに役立つ」と論文募集を全国の部隊に紹介していたことが分かった。また、応募した自衛官のうち六十人以上が石川県・小松基地に所属していた。田母神氏はかつて小松基地司令を務め、この時に論文を募集した企業の代表と知り合ったという。
直接の上司の指示など組織としてのかかわりについて、他部隊の自衛官を含めて調べてみる必要があるのではないか。河村建夫官房長官は各論文内容の検証にも言及している。
田母神氏の論文は以前からの持論とみられており、イラク空輸活動を違憲とした名古屋高裁判決に「関係ねえ」とも発言している。そうした田母神氏が空自トップにまで栄進し、しばらく職責を担っていた。官房長官は内閣の任命責任を認めているが、自衛隊の組織運営についても検証が必要であろう。
教訓を踏まえ過去と無縁の組織であるからこそ、自衛隊に対する信頼が培われてきた。多くの人が、今回の出来事に不安を募らせているはずだ。
(2008年11月9日掲載)