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15歳の春。
僕がはじめて憧れた人は、復讐鬼だった。
パリの貴族の家に生まれたアルベールは、
退屈な日常を脱するために、親友のフランツと旅に出た。
月面都市ルナで、出会ったのは、モンテ・クリスト伯爵という大富豪。
傍らには絶世の美女、後ろには屈強な部下を従え、
ルナ一番の高級ホテルで優雅に暮らすその姿。
伯爵のミステリアスな魅力にすっかり心酔したアルベールは、
伯爵をパリの社交界へ迎え入れる。
しかし、アルベールはまだ知らない。
伯爵の真の目的は、その昔、自分に無実の罪を着せ、
フィアンセを奪ったアルベールの父と、フィアンセであった母への復讐であることを。
そして、その間に生まれた自分自身も、復讐の標的であるということを―――。 |
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企画原案・キャラクター原案・監督 |
前田真宏 |
原作 |
アレクサンドル・デュマ著「モンテ・クリスト伯」 |
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シリーズ構成・脚本 |
神山修一 |
キャラクターデザイン |
松原秀典 |
美術監督 |
佐々木洋、竹田悠介 |
ディジタルディレクター |
ソエジマヤスフミ |
撮影監督 |
荻原猛夫 |
音響監督 |
鶴岡陽太 |
アニメーション制作 |
GONZO |
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脚本 |
高橋ナツコ、山下友弘 |
友情デザイン |
小林 誠 |
色彩設計 |
村田恵里子 |
スペシャル3DCGIアニメーター |
鈴木 朗 |
編集 |
重村建吾 |
音楽 |
ジャン・ジャック・バーネル(The Stranglers) |
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明治20〜30年代には海外の小説の翻案が流行しアレクサンドル・デュマ(1802〜1870)の『モンテ・クリスト伯』も黒岩涙香の手によって地名が日本に置き換えられ『巌窟王』として紹介された。
原作では、物語の幕開けは1815年のマルセイユ。将来を嘱望される19歳の若き船長候補エドモン・ダンテスは、同僚ダングラールと恋敵フェルナンの陰謀により、ボナパルト派のスパイだと密告され、メルセデスとの婚約披露宴の席で逮捕される。担当にあたった判事代理のヴィルフォールも、ダンテスが持っていた問題の手紙が、自分の父あてであったことを知り、保身のためにダンテスを政治犯の牢獄、イフ城に送り込む。失意の中、隣の牢にいたファリア司祭から事実を聞かされたダンテスは復讐を心に誓い、ついに14年後に脱獄に成功する。司祭の遺言に従い、モンテ・クリスト島に埋蔵された財宝を手にしたダンテスは、モンテ・クリスト伯爵として緻密な計画のもとに、彼を陥れた者たちに次々と復讐を果たしていく。パリの社交界に現れた、この洗練された紳士があのダンテスだと知らされるのは、彼らが破滅するその瞬間だった。ギリシャ神話や聖書、モリエールにシェイクスピアなど、劇作家として出発したデュマが、その教養を惜しげもなくつぎ込み、当時の犯罪実録とミックスした一大絵巻。
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取材・文/矢吹 武 |
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次期大統領の座を狙う将軍フェルナンと、社交界の華と謳われるメルセデスの間に生まれ、何不自由なく育てられてきた少年。月面都市ルナでモンテ・クリスト伯爵と出会い、その優雅なアウトローぶりに惹かれ、虜になっていく。 |
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深宇宙より凱旋した謎の大富豪。アルベールの紹介でパリの社交界にデビューするやいなや、その魅力的なルックスと機知に富んだ会話で、一躍時代の寵児となる。しかしその正体は、過去、自分を裏切った仲間に対して復讐を誓う冷徹な復讐鬼。 |
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アルベールの親友。アルベールの思いつきやきまぐれに振り回されながらも、いつも面倒をみている利発でスマートな少年。アルベールが次第に伯爵にのめり込んでいく様子に不安を覚え、再三注意を促す。 |
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アルベールの父。宇宙軍の将軍。英雄として宇宙に名を知られる軍人で、その人気ぶりが後押しし、次期大統領選挙の出馬準備に追われている。 |
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アルベールの母。その美貌と教養で、社交界の華として謳われている。家では良き妻・良き母として家族のことを支えている。 |
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アルベールのフィアンセ。パリ有数の銀行家ダングラール家の一人娘。幼馴染として育ったアルベールにはいつも憎まれ口をたたいている。明るく社交的な性格でピアノが得意。将来はピアニストになる夢を強く持っている。 |
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――なぜこの21世紀に『巌窟王』をアニメ化したのでしょうか。 |
「実は昔からアニメ化したいと思っていたSF小説があって、今ならその世界を映像化できるという自信もついてきた。いざ、権利関係を調べ始めたところ、実写映画化する計画なども出ているらしく、残念ながら現時点では諦めざるを得なかったんです。
それはアルフレッド・ベスターが半世紀近く前に発表した『虎よ!虎よ!』だったんですが、この作品は『モンテ・クリスト伯』を元に舞台を宇宙に移したSFなので、だったら、僕自身が『モンテ・クリスト伯』をSFとして作り直してしまおう、と思ったんです。」 |
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――アニメ化するにあたって留意した点は何ですか? |
やはり、原作のテーマである“復讐”という行為自体からは目をそらさないように気をつけました。エドモン・ダンテスは、ありあまる財力を用い五年間も復讐に専心するある種のパラノイアともいえる存在。僕らが日常では持ち得ない覚悟をもったエドモン・ダンテスは、僕自身とは全く逆で、そこに魅力を感じます。伯爵は復讐という行為を、モラルとしては決して認められない行為だと理解しつつも、己の意思を貫くためにおこなう、ダークヒーローなのだからこそ、復讐というテーマから、外れないようにしました。 |
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――世界観を作るときに苦労した事はありますか? |
一番は“価値”についてですね。『巌窟王』のようにテクノロジーが進んだ遠未来では一体何に価値をおくのか? 金はともかく、ダイヤモンドなんて宇宙のあちこちにあるもので、価値なんてない。最新テクノロジーに使われるシリコンなんて宇宙にはそれこそ腐るほど存在する。テクノロジーが進めば進むほど骨董品や天然素材になっていくのではと思います。だから貴族は車には乗らず、馬車に乗る。不便だけどスタイリッシュなものに魅かれるパリを描きました。全体が『欲望』を巡る物語なので“価値”というのは重要なポイントです。
テクノロジーという点では「通信」の扱いが苦しかったですね。電話一本いれれば済んでしまうことが多いんですよ。原作ストーリーでは、電話がないから成り立っているところもある。だから、貴族は電話なんて野暮なものは使わないということで、電話は登場しません。それは、どんな高度なプロテクトをかけても、通信は必ず傍受されるほど、進んだテクノロジー世界という前提があってのことです。ですから、彼ら貴族は、最も信頼性のある通信手段として手紙をつかっています。 |
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――原作の世界観でこれははずせないと思ったのはなんですか? |
「原作の地理的な広がりはそのまま使いたいというのはありましたね。『モンテ・クリスト伯』では、パリを中心とした同心円状に文化―野蛮のグラデーションが描かれていて、パリから離れれば離れるほど野蛮に描かれている。パリは自由と人権を尊重する土地であり、文化の先進地。イタリアは素敵な土地ではあるけれど、もう過去の帝国であるっていうイメージ。さらに離れて地中海、モロッコとなると、海賊、奴隷商までもがいる。
アニメでは、母なる地球のパリに住んでいる人は特権階級で爛熟した文化を謳歌している人々です。月を含む地球圏が原作でいうイタリアで、太陽系の中が地中海。その外が、オスマントルコで、帝国と呼ばれる敵対する国が存在します。
壮大な世界ではあるんですが、お話し自体はパリにフォーカスされていて、他国との戦争が表立って描かれることはあまりありません。宇宙のどこかで戦争が行われているにも関わらず、豪華絢爛なパリで恋に悩むアルベール、っていう落差は僕たちの現実と変わらないですよね」 |
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――原作では、船旅から帰ったダンテスが恋敵の陰謀によって、婚約披露宴の席で突然逮捕される場面から始ますが、かなり大胆な組み替えをしたのはなぜでしょうか。 |
「大人たちの世界が、逃れられない過去に向かって収斂していくのと対照的に、子供たちの世界は未来に向かって広がっていく。今、復讐劇に取り組むことの意義と難しさについて僕なりに考えたことは、できるだけ違った視点から見てみることだったんです。デュマ自身が19世紀のパリという世界の中心にいながら、黒人の親類を持ち『境界』を生きる人間だった。そうしたマージナルな視点から見える世界の複雑さに、この『巌窟王』で迫れればと思います。 |
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