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医師の自律守らねば、医療が崩壊する―小松秀樹氏

 臨床医の立場から医療崩壊を食い止めるための主張を展開している小松秀樹氏(虎の門病院泌尿器科部長)は11月8日、東京都内で開かれた「現場からの医療改革推進協議会」で基調講演した。英国内で医師の処分を行っている組織は法律が活動の根拠であるために、医師の自律が守れなくなったとして、「処分される側の医師の納得がなければ医療制度は崩壊する」と述べ、日本が同じ轍(てつ)を踏まぬように医師自身が医療界を律することが必要と呼び掛けた。

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 小松氏は、英国で医師の処分を行っている組織は「医療法」が活動根拠であるため、自律処分の内容が大きな影響を受けているとする例を紹介。1998年に医師が連続大量殺人事件で逮捕されたことをきっかけに、英国内で医師の処分組織に対する国民の批判が集中したため、法改正によって来年にも組織の委員を務める医師の割合が約3分の2から半分にまで減らされ、医療の専門家ではない委員が増えるとした。また、処分に関する判断基準も「簡単に処分できるように」変更され、「相対的に正しそうだというレベルの心証を非専門家を含む審査員が持てば、医師を処分できるようになった。もはや自律とは言えないように見える」と述べた。

 小松氏は、「これは異常者による連続殺人事件で、医療とは実際関係ないと思う。だが、英国は国民の感情を背景に、この事件を医療改革の駆動力としたため、大きな負の遺産を後世に残した」と述べ、医師の自律処分に関する組織が法律を活動根拠としているため、医師の自律が大きく影響を受けているとした。その上で、「処分される側の医師の納得がなければ医療制度は崩壊し、患者が困る」との見方を示した。

 小松氏はさらに、英国のブレア首相(当時)が2000年に医療費増額を決定し、それまでのサッチャー政権下での医療費抑制政策を転換したものの、05年に有名臨床医学雑誌「ランセット」に、「選挙で全政党が英国の医療改革の最大の問題『医師の士気の壊滅的崩壊』に焦点を当てることに失敗した」とする社説が掲載されたと紹介した。その上で、「英国の医療崩壊は医療費の問題ではなかった。医師の養成数を大幅に増やしたが、多数の医師が英国から流出している」と述べた。日本では社会保障費増額を要求する際に、英国の医療崩壊は医療費抑制政策が招いたものだとしてよく引き合いに出されている。

 小松氏は、日本も英国に学ぶべきと主張。「財政的に自立していても、(医師の)自律は守れなかった。日本も英国医療の崩壊を後追いしている」と述べ、医療界が自律しなければ、社会保障費を増額しても同じ道をたどると訴えた。

■医療と法は相性が悪い
 さらに、医療と司法の性質の違いを説明。自ら“学習”して“変化”していこうとする医療に対し、司法は他のシステムに“変化”を求めていくものとした。その上で、「医療崩壊の最大の原因は、行政、司法が自らの特殊性を認識せずに、医療のハンドリングを間違えたことが大きいと思うようになった」と述べ、「福島県立大野病院事件」などを引き合いに、司法が医療をコントロールしようしてもうまくいかないと指摘した。

■刑事免責は危険
 また、大野病院事件を契機に医療者の刑事免責を求める声が上がっていることについて、「その主張は危険。刑事司法の重い手続きは個人の尊厳を守るための装置」と述べ、反対の立場を強調した。「刑事被告人の立場になることで、医師にも基本的人権があるということを、社会に理解させる。刑事免責という特権は、医師から基本的人権を奪い取り、統制医療と簡素な手続きによる大量行政処分をもたらし、人民裁判に近いものになる。そもそも行政は司法ではないため、懲罰権を振り回すことには大きな問題がある。結果として医療を崩壊させ、国民が困る」。

 小松氏は、医療は専門性が強いため、非医療者が処分を決定すると、医療の実情と乖離(かいり)するとして、「医療そのものの活力を抑制する可能性がある」と指摘。医師の適性審査と自律処分を医療界自身で創設していくことが必要だと呼び掛けた。

 最後に、自律処分組織をつくるための考え方として次のように述べた。
 「理性で感情をコントロールすることが困難である限り、医療をめぐるあつれきは永遠に続く。医療問題を解決する完ぺきな制度はないと覚悟すべき。改善は少しずつ、多段階で時間をかけて行うべき。人間の予想能力は当てにならない。大きな制度を一気につくると、医療を破壊する可能性がある。法に逆らわず、法に頼らず、法と距離を保ちつつ、医師としての良心と科学を基礎に、したたかな知恵で、医療のための領域を守る必要があると思っている」


更新:2008/11/10 22:11   キャリアブレイン

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