社 説

妊婦受け入れ/遺族の願い受け止めれば 

 「妻が浮き彫りにしてくれた問題を、力を合わせて改善してほしい」「医師も看護師も本当に良くしてくれた。彼らが傷つかないようにしてほしい」

 妻を失った夫の言葉の中に、難問と向き合う当面の糸口が示されていると考えたい。

 脳内出血の症状を訴えた妊婦が複数の病院で救急搬送の受け入れを拒否されていたことが、東京都内で2件、相次いで表面化した。1人は死亡し、もう1人は意識不明の状態が続いているという。

 死亡した女性は8カ所、もう1人は7カ所で断られた。2人とも国が指定する「総合周産期母子医療センター」でも受け入れてもらえなかった。

 産科医の数が絶対的に足りない。東北のセンター指定病院でも未指定県の山形を除く5カ所のうち4カ所で、当直の1人態勢を強いられている。

 この国の医療が抱え込んでしまった深刻な事情を考えれば、解決は容易ではない。しかし、遺族の願いを切実に受け止めれば、このまま立ちすくんでいるわけにはいかない。

 センターは全国で75カ所が指定されていて、都内は9カ所。医師不足は常態化している。60カ所が回答した先日の調査で、55%が常勤医の定数割れに陥っており、その大半が当直の医師を1人しか確保できていないことが分かった。

 人数が足りなければ一人一人の仕事量はきつくなる。日本産科婦人科学会が全国の勤務医約300人に聞いた最近の調査によると、拘束時間は月平均で300時間を超え、500時間を超える例もあった。

 「力を合わせて」、まず取り組めることは何だろう?
 連携の強化と現行態勢のきめ細かな運用。その2つの視点で、改善、再発防止への一歩を踏み出したい。

 都内ではセンター間で「輪番制」を敷いて急場をしのぐことになった。県内に1カ所の地方ではこれは無理な話で、当直以外の待機態勢や近隣病院の補完を工夫するしかない。

 救急医療の仕組みが、センターの機能にうまくつながっていなかった。今回の受け入れ拒否をめぐっては、そんな指摘も出ている。診療科の違いが壁になることがないよう地域全体で見直さなければならない。

 現状の施設配置を十分生かすためには、搬送先を割り振る「コーディネーター」を置くのが望ましい。札幌市では10月から、コーディネーターが毎日、地域内の病院の受け入れ状況を確認し、夜間の当番病院を選定する試みが始まっている。

 「のど元過ぎれば忘れるのではなく、具体的な目標を持って改善に向かってほしい」。妻を失った夫の言葉をかみしめて、知恵を集めたい。
2008年11月09日日曜日