定額給付金/政治の迷走が苦々しい
生活現場が日に日に悪化する経済を嫌というほど実感させられているのに、あまりに政治が迷走している。
政策そのものに、どれだけ国民の支持があるかはさておいても、経済再生に何より求められる迅速な決断と実行性が欠落していると言わざるを得ない。
政府が追加経済対策の柱として盛り込んだ総額2兆円の定額給付金のことだ。
自民、公明の与党は一昨日、支給額について、一人当たり1万2000円とし、18歳以下の子どもと65歳以上の高齢者に8000円を加算する基本方針を固めた。これだと、夫婦と子ども2人の標準的世帯には6万4000円が支給される計算になる。18歳以下の子どもがいない4人家族は4万8000円だ。
永住資格を持つ外国人についても、1999年に配布した地域振興券と同様、給付金を支給する方向で検討するという。
しかし、支給対象から高額所得者を除く所得制限については協議を継続し、12日まで結論を先送りしたほか、給付金の財源や関連法案の提出時期なども決まっていない。
定額給付金は「金融災害というべき百年に一度の暴風雨」(麻生太郎首相)の中で、追加経済対策の目玉として入ったが、支給方法などをめぐって政府・与党内で二転三転した。
支給方式が定額減税から定額給付金へ変わったのが、その一つだ。当初、公明党は「ばらまき批判」が強かった地域振興券についての反省を踏まえ、定額減税を主張したが、自民党が減税に比べ機動的に実施できる給付金への切り替えを提案。事務の煩雑さの解消と支給対象の拡大による消費刺激効果の観点から給付金に落ち着いたという。
受給者がよりありがたみを感じる給付金の効果を次期衆院選への得点に結びつける政治的思惑もあったのだろう。
支給時期については、年を越すと越さないでは大変違うと「年内」も検討されたが、その後「年度内」に変更され、今回の与党協議でも「年度内」実施が確認されている。
今、もめているのが所得制限の問題だ。「生活支援定額給付金」の名が示す通り、給付金の目的は第一に暮らしの不安を取り除くことであり、高額所得者は除外されて当然なのだろう。
だが、対象外とする所得の線引きや、厳密で詳細な所得の捕捉など事務に手間取ると、支給の迅速性が失われるといった問題もあり、閣僚間でも意見が異なっている現状だ。
支給方法、支給対象などで物議を醸すことが分かっているはずなのに、詰めもしないで「定額給付金」という花火を打ち上げるだけでは政策のプロとは言えないだろう。首相のリーダーシップも疑わざるを得ない。
そもそも「定額給付金」が消費拡大に結びつくかどうかは疑問視されている。景気が目に見えて悪化する中、給付金は貯蓄に回されるという見方が強い。2兆円を一括して医師確保対策や介護報酬の引き上げなど、中長期を展望した施策に使う方法があったのではないだろうか。