製造業の派遣社員の契約期限が一斉に切れる「二〇〇九年問題」に、富山の人材派遣業
界が戦々恐々となっている。原則、同じ職場での再契約ができず、業界の「死活問題」と
なりかねないためで、メーカー側も直接雇用に切り替えるかどうかなど、対応を決めかね
ている企業が多い。景気減速による雇用環境の悪化も加わり、一時飛ぶ鳥を落とす勢いだ
った派遣業界が一転、窮地に立たされている。
自動車や電機など製造業で働く派遣社員は、契約期間が三年となっており、来年三月以
降、一斉に期限を迎える。これにより、メーカー側は派遣契約をいったん打ち切るか、直
接雇用や派遣業者への業務委託(請負)に切り替える必要が出てくる。
これに、製造業の派遣社員を多く抱える富山県の人材派遣業界が危機感を強めている。
製造業を中心に約百七十人の派遣社員を登録するグロス(富山市)の安川弘哲社長は「
景況悪化でただでさえ派遣社員が減っており、死活問題だ。業界再編につながるかもしれ
ない」と警戒感を隠さない。今夏に比べて派遣社員は七十人規模で減っており、飲食店や
介護施設など新分野参入も進めている。
約二百五十人が登録する人材のワールド(富山市)の派遣先はほぼ全員が製造業。派遣
人数は今夏に比べ、約五十人減った。富山県東部の電子部品会社との間で、五十人規模の
派遣契約を業務請負契約に切り替える準備を進めている。担当者は「派遣先が直接雇用す
れば人材派遣会社の出番はなくなる」と危ぐする。
七十人規模の派遣社員の派遣先はほとんどが製造業という人財サポート(富山市)の堀
田則吉社長は「現場で計画的なローテーションをしながら派遣社員を使う方法も提案した
い。ただ、このままだと会社がもたない」と人材派遣会社の廃業で大量の失業者が出かね
ないと指摘する。
メーカー側も対策を急ぐ。
コマツNTC(南砺市)は正社員約七百人に対し、派遣社員が四百―五百人おり、「労
働局の指導を仰ぎながら期間工や正規雇用を考えたい」とする。コマツ粟津工場(小松市
)は約七十人の派遣社員について期間工への切り替えを順次進める。契約は半年ごとに更
新するという。
ただ、メーカー側も、人件費抑制のため、「派遣社員を正社員に切り替えるのは避けた
いのが本音」(関係者)という。
富山地区だけで約六百人の派遣社員を抱える不二越(富山市)は今夏から検討を進めて
いるが、「請負や期間工など雇用を継続するにはどうしたらいいか、派遣会社から提案を
受けている」(経営企画部)という段階だ。
三光合成(南砺市)も「情報収集は進めているが、結論は出ていない」とし、タカギセ
イコー(高岡市)も「様子を見ながら進めていく以外に方法はない」と、対応は決まって
いない。
昨年から派遣社員を採用した澁谷工業(金沢市)は、雇用期間が二〇一〇年までのため
、「他社がどうするかを参考に、対応を進めたい」とする。
「二〇〇九年問題」をめぐり、富山県のメーカー関係者の間では「派遣社員の再契約が
できなくなると、立ち行かなくなる」「減産する中で派遣を切る口実になる」など、さま
ざまな受け止め方が広がっている。
総務省が昨年まとめた就業構造基本調査によると、派遣社員として働く人口は富山県で
一万四千八百人、石川県で一万四千四百人。富山労働局によると、富山県では製造業への
派遣は六割程度を占める。減産や設備投資の抑制が続く中、派遣という雇用形態は全国で
増加傾向にあり、企業側には早急な対策が求められている。