「日本の医療は世界一」と世界保健機関(WHO)が年次報告で評したのは2000年のことだった。健康に暮らせる期間の長さを示す健康寿命や、それを支える医療制度などが抜きんでていた
▼評判を信じて日本に視察に来た人は、昨今のニュースに耳を疑うはずだ。公立病院閉鎖などで医療崩壊が地方で進行中。産科医や小児科医、外科医などの不足が生む悲劇は都市部でも絶えない。こんな日本にいつからなったのか
▼視線の多くは、2004年から始まった「新臨床研修制度」に向く。新人医師に2年間の研修を義務付け、研修先は自由選択にした。勤務が厳しい病院は敬遠され、回り回って医師偏在を加速する
▼WHOの報告は過去のものになっていくのか。そんなことも考えさせられる「決断の時―崖(がけ)っぷちの日本医療」が、きょう午後4時から全国フジ系列で放送される。テレビ西日本(福岡市)が福岡市内の中核病院で勤務外科医とがん患者に1年間密着取材した
▼その外科医は末期がん患者とも向き合う。「最後まで治療を」という願いに応えようと努める。いつまで応えられるのだろうか。同僚医師の離職で負荷が増す勤務外科医の自問自答が重く響く
▼番組の案内役は、がん闘病を経験したジャーナリストの鳥越俊太郎さん。「日本人は3人に1人ががんで死亡し、がんになるのは2人に1人…」。知っているはずの数字も、重みを増してのしかかる。
=2008/11/09付 西日本新聞朝刊=