◎「地域の赤ひげ」養成 医療の立て直しは教育から
受け入れ先を探すのに時間を費やし、急を要する疾患を伴う妊婦が死ぬという出来事や
、地方における卒後研修医の充足率の低迷などに象徴される医療崩壊を食い止めるには、やはり医学教育を改善し、充実するのが基本ではないか。
富大医学部が地域医療の担い手となる医学科の学生を支援するため「医学教育学講座」
を開設するのは時宜にかなっている。金大でも地域医療学をテーマにした寄付講座が設置されたほか、「医の心」「倫理観」を重視した人材養成の強化を目指している。まいた種はすぐ収穫につながらないが、種をまかないと収穫ができないのである。地域で活躍する「赤ひげ先生」を養成してもらいたい。
富大に新設される講座は、推薦入試の「地域枠」の導入で卒業後に富山県内で医療に携
わるという学生が増えたことに対応するものである。入学から臨床研修までを一貫して指導し、臨床研修のマッチング率の向上、優秀な学生の確保に努め、教員の指導力向上にも役立てる。日本ではいくつかの医学部や医大が開設している講座であり、北陸では金沢医科大がすでに発足させている。
二十世紀アメリカの医学界の知性であり良心であるといわれた医学者ルイス・トマスは
医学部の学生や医学部への進学を希望する学生に対して科学だけでなく、一般教養をも学ばせることの重要性を主張し、自ら実践した。たとえば、老化の研究を志す学生には「老いるという問題のあり方を垣間見るために、少しのあいだ科学を離れ、老人の世界を描いた文学を読みなさい」とカリキュラムに織り込んだ。文学も医学に役立つ立派な文献であり、それを通して医学の知識や技術を超えた、医師には極めて大事なものが見えてくるとの考えからだった。
トマス先生が半世紀も前に提唱したことだが、医学教育学講座に取り入れてほしいこと
だ。地域医療にしても病気だけを機械的に診ることにとどまっていてはなるまい。すなわち、病気の背景にある人間や地域の問題に精通させることによって「赤ひげ先生」ができ上がるのである。
◎大麻事件増加 法の抜け穴ふさぐとき
大麻の所持、栽培、譲渡などで摘発される事件が石川、富山県など全国で増加している
。インターネットなどで大麻の種子や栽培情報が入手しやすくなったことが背景にあるが、大麻汚染に歯止めをかけるはずの法律の問題点も指摘されている。法に不備があれば犯罪抑止効果が薄れ、警察が大麻に振り回される状況はいつまでたっても変わらないだろう。法の抜け穴をふさぐ対策を真剣に考えるときである。
全国的に大学生の大麻汚染が広がり、石川県でも昨年、大学生が複数逮捕された。今年
は小松、南砺市などで大麻栽培も摘発されている。警察庁の今年上半期の統計では、大麻事件の摘発者は千二百二人(前年同期比12・3%増)と過去最悪のペースだが、これは氷山の一角に過ぎないだろう。
小松市の栽培事件ではネットで種子を購入していたことが分かった。大麻取締法では種
子の販売は規制対象外で、「観賞」名目で販売する店もある。所持や栽培でいくら摘発しても種が野放しでは元も子もない。種子は鳥のエサ、香辛料などの用途もあるが、それ以外の違法販売については重点的に目を光らせる必要がある。
大麻取締法には「使用」に対する罰則がないのも腑に落ちない点である。大麻は産業用
の用途があり、他の薬物関連法とは成り立ちも歴史も異なる特有の法律となっている。だが、ネットに象徴される情報化や国際化の進展で大麻は一般人にも近い存在になっている。現在の法の仕組みや運用はそうした現実に追いついていないのではないか。
大麻は他の薬物使用のきっかけになりやすい「ゲートウェイドラッグ(入門薬物)」と
の指摘もある。ドラッグへの抵抗感や警戒心が薄れ、もっと悪性の強い薬物に手を出す恐れも考えれば大麻汚染は一層深刻な問題である。
海外では規制の緩い国もあるとはいえ、日本では明らかな違法薬物である。何より憂慮
されるのは、違法を承知で安易に手を出す風潮の広がりである。ルールを無視する人間が増えていけば社会の秩序はとても保てないだろう。