草津町の国立ハンセン病療養所「栗生楽泉園」で5日、かつての入所者の生活ぶりが分かる日用品や、園内で制作した芸術作品を展示する「社会交流会館」がオープンした。交流会館は園外の人も閲覧できるため、入所者は「差別や偏見の歴史を後世に伝えたい」と喜んでいる。
園内で行われた開館式には入所者ら約30人が出席。入園者自治会の藤田三四郎会長(82)は「ずっと要望してきた施設が、ハンセン病問題基本法が制定された記念すべき年に完成した。多くの人にハンセン病のことを正しく理解してもらうよう有効に使いたい」とあいさつした。
同館は木造平屋建て268平方メートル。館内の資料約300点はすべて、園内の旧青年会館から移転したもの。入所者の手による油絵や書、俳句など芸術作品は多岐にわたる。そのほか、温泉を源泉から園内に引くための「引き湯管」など、戦後しばらく過酷な労働が強いられたことを示す道具や写真パネル、さらに実際に治療に使われた薬も展示されている。今後、入所者の著書も並ぶ予定だ。
自治会は02年ごろ、資料館の新設を国に要望した。ところが、厚生労働省は既に東京都東村山市の「多磨全生園」に資料館が設置されているのを理由に拒否。代替案として近隣住民との交流の場として「社会交流会館」の名称での開設を認め、07年度に予算化した。
自治会がこの施設にこだわったのは、ハンセン病の歴史を後世に残したいという強い思いからだ。園内は平均年齢81歳と高齢化が進み、1300人以上いた入所者は現在、165人に減った。自分たちの言葉で歴史を伝えられる人が減り、藤田会長も「残された時間はあまりない」と危機感を募らせる。
一般の人も自由に入館でき、希望があれば入所者が説明する。入所者でかつて園内にあった監禁施設「重監房」を知る数少ない生き証人の鈴木幸次さん(84)は「資料は置くだけじゃ意味がない。皆さんに面と向かってきちんと伝えたい」と来場を呼び掛けている。【伊澤拓也】
毎日新聞 2008年11月6日 地方版