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社説:自治体財政指標 血の通った運用も必要だ

 地方財政の悪化が深刻な中、新たな物差しをどう生かすか。07年度決算に基づく自治体財政の健全度を総務省が公表した。07年に制定された自治体財政健全化法が導入した新指標を適用した結果、3市村が財政破綻(はたん)状態で、40市町村がその手前の警告段階にあることがわかった。

 景気悪化で今後、自治体は税収の減少が懸念されている。健全化法が実際に適用されるのは08年度決算からだが、警告カードを突きつけられた自治体はすみやかに対策を講じる必要がある。一方で国も、新制度が公立病院の切り捨てなど住民サービスの低下をいたずらに誘導しないよう、血の通った運用をこころがけるべきである。

 自治体財政はこれまで、通常の会計に赤字が占める割合で健全度を判断した。しかし、すでに破綻した北海道夕張市の場合、第三セクターや事業会計の「隠れ借金」を早めに見抜けず事態の悪化を招いた。この反省から公営企業の会計も連結した「連結実質赤字比率」や、借金の返済が財政に占める割合など新たに3指標を加え、それぞれ基準値を示した。

 判明したのは「第2の夕張」となりかねない自治体が数多く存在することだ。破綻を意味する「財政再生団体」に転落すれば、財政運営は国の厳しい管理下に置かれる。また、破綻予備軍として警告された自治体も、外部からの監査が義務づけられる。

 バブル期や、その後の景気対策で公共事業やハコ物に積極投資し、借金が積もりに積もった自治体も多い。財政再生・健全化計画の策定が義務づけられるのは08年度決算以降だが、手をこまねいていることはない。今回基準に該当した自治体は再建策作りに早急に取り組み、住民に示す必要がある。

 一方で都道府県にも、今後数年で借金の支払額などの数値が基準に触れかねない自治体が少なくない。大阪府が大幅な歳出カットに踏み切ったゆえんだ。法人事業税など税収減少が見込まれる中、各県は職員給与や職員数見直しに万全を期さねばならない。

 新指標で留意すべき点もある。「連結実質赤字比率」で通常の会計と連結して計算される対象には、公立病院の会計も含まれる。

 多くの自治体で、病院経営が財政悪化を招いているのは事実だ。ただ、企業経営と異なり自治体の連結決算の目的は利潤追求でなく、財政健全度の計測だ。住民サービスを削ればいいというものではない。

 政府は08年度に限り自治体の病院事業の累積債務の一部を別口の借金に振り替え、連結赤字から除外する措置を認めた。地方医療の危機を考慮し、さらなる柔軟対応も検討すべきではないか。新指標は有意義だ。だが、しゃくし定規ではいけない。

毎日新聞 2008年11月9日 東京朝刊

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