【第20回】 2008年11月07日
誰にも身近なアドビの計り知れない底力
鍵を握るのは「メタデータ」と呼ばれるコンテンツを記述する情報である。製作日時、制作者、データ形式、タイトル、出演者、ナレーションの内容、使用された画像など、あるコンテンツに関わるあらゆる情報が自動的に収集されるとどうなるか。メタデータによってそうした情報が検索可能になり、別の用途に流用したり、二次使用権を売ったり、あるいはターゲット広告を付けたりすることができるのだ。
コンテンツとは言え、何も映画やビデオなどの大げさなものでなくとも、商品カタログやホームページといったものでも構わない。これまで毎度ゼロから作り直していたものを、自動化することによって作業を軽減できるばかりか、壁に仕切られていたプロセスをひとつなぎにして、さらにそこで生まれるコンテンツを金になる資産に変えることができるわけだ。新聞や放送などのメディア会社、コンテンツ・ビジネスはもちろんのこと、メーカー、小売業など、このメタデータが活躍する場は膨大だ。
アドビの強みは、PDFやフラッシュというウェブ時代には欠かせないテクノロジーを持っていることだ。動画をコントロールするフラッシュ技術は、今やトップ100サイトの85%で採用され、8億ものデバイスに再生機能が搭載されている。フラッシュは、82%のユーザーが6ヶ月以内にデスクトップのバージョン・アップデートを済ませるほど、誰にとっても身近なメディア・ツールになっている。
そもそも、種まきも上手だった。何と言っても、PDFリーダーやフラッシュ・プレーヤーを無料で提供してきたことが現在の基礎を築いている。今はさらに進んで、photoshop.comやacrobat.comなど、サービスとしてのソフトウェア(SaaS)を無料で提供するという戦略に打って出ている。ユーザー基盤を広げて、そこへ製作ツールを投入し、さらにエンタープライズ・ソフトへ拡大するというアドビ独自の戦略をここにも見ることになるだろう。
アドビがエンタープライズ・ソフトに進出している背景にもPDFやフラッシュ技術がある。文書の一元化や共有化、ペーパーレス化、そしてビジネス・プロセスにおけるさまざまなデータをリアルタイムでわかりやすいグラフやビデオに表示し、入力を簡素化するなど、これらの技術は経営管理の根幹にアドビがますます近づく手助けをしている。
アドビは、「クリエイティブ・スイート(CS)」といった製作および製作管理ツール、「ライフサイクル」といったエンタープライズ・ソフトによって、できるだけ幅広いビジネス・プロセスを統合し、クリエイティブ・ツール開発企業から経営管理ツール開発企業への離陸を図っているのだ。
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瀧口範子
	(ジャーナリスト)
シリコンバレー在住。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(共にTOTO出版)。7月に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』(プレジデント)を刊行。
シュンペーターの創造的破壊を地で行く世界の革新企業の最新動向と未来戦略を、シリコンバレー在住のジャーナリストがつぶさに分析します。