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【書評】『「混(フン)」の中国人』金文学著
■隣邦といかに付き合うか
著者は中国の瀋陽で、韓国系3世として生まれ育った。来日して17年、日中韓の3カ国語を自在に操り、3国の比較文化論を多彩に展開、日本での著作も多い。すっかり日本びいきとなった著者は、日本人が中国人は約束を守らない、すぐ嘘(うそ)をつくと言ってはイライラしたり、外交交渉の場で、いいようにやられるのが、歯がゆくて仕方がないという。そこでずる賢くて強(したた)かな中国人に、まじめで正直な日本人が翻弄(ほんろう)されることのないよう、中国人の行動原理の裏の裏を明かそうというのが本書である。
タイトルの「混」はそれを象徴的に表した言葉で、一般的には「まあまあ、なんとかやっていく」「適当にいい加減にごまかして日を過ごす」という意味になるが、実際には、「手段を選ばず、要領よく目的を達する」「何をやっても目的を達した者が勝ち」という積極的な渡世の知恵に転化している。
極端に言うと「混」の中国人にとって、「約束を守るのは馬鹿」であり、そこに罪悪感はともなわない。正直な人間はときに損をするどころか軽蔑(けいべつ)すら受ける。偽物が横行し、契約が反故(ほご)にされ、人命が軽視されるのも当然のことだという。
本書は、けっして中国人を批判するために書かれたものではないが、日本人が中国人に対して、従来のような情緒的、観念的な見方をすることは何の役にも立たないことを教える。事実は事実として踏まえたうえで、日本人が宿命的な隣邦である中国人と、いかに付き合っていくかの重大な示唆を提示している。(祥伝社・1680円)
祥伝社書籍出版部 角田勉