3日、記者会見する田母神俊雄・前航空幕僚長=東京都中央区、越田省吾撮影
過去の日本の侵略行為や植民地支配を正当化する論文を発表して更迭された田母神(たもがみ)俊雄・前航空幕僚長が定年退職扱いとなって退職金を受け取ったことは、11日に参院外交防衛委員会で行われる参考人招致でも焦点になりそうだ。「非はない」と主張する田母神氏との正面衝突を恐れた防衛省の判断が、異例の決着の背景にあった。
「懸賞論文に応募したら300万円当たっちゃったんですよ」。田母神氏が増田好平事務次官ら防衛省幹部に受賞を伝えたのは、10月31日午後のことだった。
この時、田母神氏が心配したのは論文の内容ではなく、民間企業から受け取る賞金300万円の取り扱いだった。相談された増田氏は「事務的に詰める必要がありますね」と応じた。
しかし、増田氏は、手渡された論文のタイトル「日本は侵略国家であったのか」を見て問題になると直感。すぐに外出中の浜田防衛相に連絡した。
同じころ、「真の近現代史観」をテーマに懸賞論文を主催したホテル・マンション経営の「アパグループ」が、防衛省記者室に、受賞論文を知らせる報道機関向けの資料を届け、各社記者が一斉に取材を始めた。
夜までに論文内容の報告を受けた麻生首相は即座に「田母神氏更迭」を指示。浜田氏が田母神氏に電話で「辞表を持ってきて欲しい」と求めた。
ところが田母神氏は、増田氏に「自分からは辞めない」と返答。これを聞いた浜田氏は「航空幕僚長の要職にとどめるのはふさわしくない」と判断し、急きょ同日深夜、田母神氏を航空幕僚長から解任し、航空幕僚監部付とする人事を持ち回り閣議で決めた。
田母神氏は空自トップの職は解かれたが、空自の最高階級となる空将の身分は保たれた。このままでは退職金も支払われると聞いた河村官房長官は「なんとかならないのか」と懲戒免職を検討するよう防衛省側に指示した。