魔物図鑑

「グール(屍人)」


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     彼女の葬儀は丘の上で厳かに行なわれた。

     村の者達は皆悲しみ、土の中に沈められたリアラの棺に花を手向ける。

     多くの者が涙を流し棺を囲み神に祈りを捧げる。

     この哀れな娘を復活の日にお救いくださいますように、と。

     だが弔う者の中にいつも少女に付き添うように一緒だった男の姿はなかった。

     村人は誰もそれを咎めることはなかった。

     こうして葬儀は終りを向かえリアラの棺は暖かな土に埋められていく。

     リアラの墓標は寂しく丘の上に建てられた。本人が望んだ場所ではあったがあまりに

     殺風景な場所。これではほとんど墓に訪れるものは少ないだろう。

     そんな彼女を悲しむかのように葬儀も終わりに差し掛かった頃から次第に雲行きが怪しくなり

     ついに空からはぽつりぽつりと雨が降り始めた・・・。

     村人達は後ろ髪引かれる思いで皆早々にその場を後にした。

     ……その夜

     降り続いていた雨は勢いを増し、雷鳴が轟くほどに天候が悪化した。

     雨の雫がまるで放たれた無数の矢のように大地に降り注ぐ。


     そんな中、誰もいなくなった丘の上で激しい雨に打たれながらも何者かがリアラの墓の前で何かしている。

     何か柄の長いものを大きく振りかざし一心不乱にリアラの墓の真下を突く。

     ざくっ…ざくっ…ざくっ……

     雨音に混じり、何かを土に突き刺すような不気味な音が聞こえる。

     何者かがリアラの墓の下を大きなスコップを地面に突き刺し掘り返している。

     やがて雨に濡れ、泥のようになった黒々とした地面の中から棺が見えてくる。

     何者かは大人3人がかりでも持ち上げられそうに無い棺を不気味な叫び声とともに力任せに引きずり出す。

     そして棺の蓋を持ち上げる。死者を冒涜する神をも恐れぬ行為である。

     棺の中には既に火葬が終ったリアラの遺骨が収められている。

     何者かは用意していた松明に何事かぶつぶつと呟く。

     何者かがその言葉を言い終わると同時に松明に炎が灯る。

     激しい雨の中でも掻き消えることなく、炎が小さな揺らめきで周囲をほんの少し照らし出す。

     今から何が始まろうというのか。雨が棺の中にも容赦なく降り注ぎ少しづつ雨水が溜まっていく。

     何者かが突然低く唸るような嗚咽にも似た叫び声をあげると

     傍らに用意していた松明を入れていたであろう麻袋に、あろうことか棺の中に両腕を突っ込み

     掻きだすようにしてリアラの遺骨を集め、次々と袋に詰めていく。

     何者か黒い影は棺に頭を突っ込んで隅々まで確認する。

     暗い上に雨が降っていてよく見えないが棺の中には、後はリアラの頭部らしき骨しか残っていないようだ。


     何者か黒い影は松明を地面に突き刺し棺の中に腕を伸ばすと

     ほぼ完全な形を残した頭蓋骨を持ち上げ、自分の顔と対面させる。

     その時、轟音と共に眩いばかりの雷鳴が鳴り響く。夜の闇は何度か瞬く閃光に照らされ

     黒い影の姿が露わになる。

     雨で濡れ、顔にべったりと髪が張り付いたリアラの片時にいつも離れずいた男。

     それは紛れも無いコーネルの姿だった。

     コーネルの顔は険しく目は血走り、冷たい雨に混じり瞳からは涙を流している。

     そして獣のような低い嗚咽を発する。

     以前の彼からは想像も出来ないほどその表情は狂気に満ちている。

     コーネルは嗚咽を放ちながらリアラの頭蓋骨を自分の胸へと強く抱きしめる。


     「リアラ…お前を…こんな冷たい土の中で……一人にさせはしない…!」

     コーネルはリアラの頭蓋骨を抱いたまま常軌を逸した表情で朗々と呟く。


     「さあ・・・行こう・・・・・これからは・・・ずっと・・・・・・一緒だ・・・・・・ずっと・・・ずっと・・・・・」


     コーネルは頭蓋骨を麻袋に入れると棺の蓋を戻し、元のように掘った場所に入れて

     雨に塗れ泥のようになった冷たい土を覆いかぶせる。

     そして空になった棺の真上に元あったように墓石を載せると早々にその場を後にした。

     雨はより一層激しさを増していく。

     何もかもが天から降り注ぐ水の矢と轟音に呑み込まれる。



                                                               
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