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社説:社会保障改革 「大丈夫か」の不安に応えよ

 社会保障の将来は大丈夫なのか。多くの国民がそう思っている。保険料の負担増を心配し、年金記録の改ざんなどの不祥事で制度不信を強めている。

 政府の社会保障国民会議が最終報告をまとめたが、こうした国民の気持ちにどこまで応えるものになっているのか。

 最終報告は国民の暮らしを確実に支える社会保障の改革に向けた方向性を示し、その実現に必要な財源を消費税換算で書き込んだのが特徴だ。団塊世代が75歳以降になる25年度で、年金、医療、介護、少子化対策の改革を行うための費用が消費税換算で6~13%になるという推計数字が書き込まれた。

 消費税で換算したのがミソで、税率アップへの地ならしでもある。高齢化によって増えていく社会保障の給付費を消費税の引き上げでまかないたいという国民会議のメッセージと受け止めると、分かりやすい。

 しかし、高い消費税率に驚く必要はない。なぜなら推計は仮定を置いて試算したもので、改革の中身の議論がなされていないからだ。消費税の推計数字に目を奪われてしまうと本質を見失ってしまう。これから始める改革議論のためのデータと考えればいい。

 小泉政権時代の社会保障改革は、将来の医療や年金の給付費を試算し、「小さな政府」をめざす改革の実行によって、大幅に削減するという進め方だった。今回は、先に改革のシナリオをいくつか示し、それを実現するには、どのくらいかかるかを推計、その後で改革シナリオを詰める手法を取った。

 改革の中身を並行して議論せず、例えば基礎年金の財政方式の議論などを先送りにしたままで、推計を示した点が最終報告書の弱点であり、国民会議の限界でもある。 

 社会保障の制度改革を否定する人はいない。だが、将来像を描いて、必要な財源を手当てするための具体論に入る手前で議論は止まってしまう。社会保障を政争の具にしてはならない、とこれまでも指摘してきた。しかし、現実には与野党が改革案をまとめる状況にはなっていない。

 今、やらなければならないことを整理してみたい。まず、短期的には基礎年金の国庫負担を2分の1に引き上げるための安定財源を確保すること、医師不足や救急医療など緊急課題に取り組むことだ。その上で、国民会議が示した提案や推計もたたき台にしながら、中長期の改革案を財源も含めて具体的に作ることだ。

 国民会議の吉川洋座長(東大教授)は「最終報告を改革議論の始まりにしてほしい」と述べている。麻生太郎首相は年末までに改革の工程表を作ると表明した。国民の不安に応えるために議論の土俵を作り、今度こそ制度改革への一歩を踏み出す時だ。

毎日新聞 2008年11月8日 東京朝刊

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