更新:11月7日 10:30インターネット:最新ニュース
払ったりもらったり、力で決まるISPの接続料 インターネットのお値段(2)
どうやらインターネットの料金を大きく左右しているらしいのが、プロバイダー(インターネット・サービス・プロバイダー、ISP)が負担する「ネットワーク維持コスト」。その詳細をたどっていくと、普段は意識することがなかったISPから先へと続くインターネットのプロの世界が徐々に浮かび上がってくる。 前回の第1回では、自宅からISPまでの通信がどういうルートをたどり、ISPに支払う月々の料金がどのように使われるのかを見ていった。しかしISPにつながるだけでは昔のパソコン通信と変わらない。 今、私たちがインターネットで世界中のサイトを閲覧したりメールをやり取りしたりできるのは、自分が契約しているISPがほかのISPとつながっているから。それではISPのネットワークはどのような仕組みで、どんなコストがかかっているのだろう。再びニフティの木村孝・経営補佐室担当部長に聞いてみた。 ■回線料と接続料 「ISPのネットワーク維持コストは回線料と接続料の2つに分けられます。ISPは通信事業者から回線を借りたり自ら整備したりして、全国に自前で使えるネットワークを持っています。家のパソコンからNTT東日本などの地域回線網を経由してISPに受け渡されたデータを、このネットワークで送るのです。このネットワークの回線をバックボーンといい、通信事業者から借りている場合は利用料が1回線あたり月額500万−600万円ほどかかることがあります」 「もう一つの接続料とは、ISPとISPが直接接続する際に発生する料金です。ISP同士がつながる場合、お互いをつなぐ回線料などを折半するピアリングというやり方と、一方が相手のISPに料金を払うトランジットというやり方があります。これは相対取引で決まります。回線料と接続料の具体的な金額はいえませんが、ISPのコストのうちかなりを占めています」 つまりISPはバックボーンを借りている通信事業者に料金を払う一方で、ISP同士でお互いに接続料を払ったりもらったりしているということなのか。まずは通信事業者であるNTTコミュニケーションズ(NTTコム)企画部の辻本和也さんに、ISPに提供する回線について聞くことにした。 ■インターネットの高速道「バックボーン」 そもそもバックボーンというのは何ですか。 「バックボーンとは簡単に言えば、大量の情報を流すための太い通信回線です。通信回線というのは光ファイバーなどの回線とルーターの集合体ですね。インターネットの情報は回線を流れる際に途中のルーターで行き先を変えながら、目標とする場所に向かいます。NTTコムはこの回線をISPに貸しています」 NTT東日本などの地域回線網とはどう違うのですか。 「地域回線網が県道などの一般道路なら、NTTコムの回線は高速道路と考えてもらうと、分かりやすいと思います。ISPはそれぞれ回線(車線)を確保しておいて、情報(車)を高速でやりとりします。インターネットで情報をやり取りする人が増えると、情報が増えて回線が混雑して渋滞してしまいます。そのため、ISPは需要増に対応するために回線を増やしています。ISPの需要に対応するため、NTTコムも半年後の需要予測プラスアルファの設備投資をして、回線を増やしているのです」 ISPはそれぞれネットワークを持っている。ではISPとISPはどうつながっているのですか。 「直接回線をつなぐほか、インターネットエクスチェンジ(IX)という中継点(事業者)で複数のISPがお互いに接続できるようになっている場合もあります。IXは行き先に応じて別の高速道路へ乗り換えるジャンクションと考えてください。同じようにたとえれば、地域回線網とISPの接続点は一般道から高速道に入るインターチェンジですね」 そうか。家から首都高速に入って、東名高速に乗り継ぎ、さらに九州自動車道を通って鹿児島の友達にメールを送る。これがISP同士がつながったインターネットの世界だ。では、日本と米国のように国と国をつなぐ回線は誰が持っていて、だれがネットワーク維持コストを負担しているのですか。 ■国際ケーブルもISPの負担 「海底を走る国際ケーブルは、NTTコムやKDDIなどの通信事業者が整備しています。NTTコムは今年の夏にロシアと日本をつなぐ回線を開通させました。この回線により、例えば日本から欧州のサイトを見るような場合、これまでの米国やインド洋経由だけでなくロシア経由でもつながります。複数のルートがあるので、利用者はよりスムーズに接続できるようになります」 「もちろん、この国際ケーブルも日本国内と同じように、ISPにバックボーンとして貸し出しています。各国のISPがそれぞれ海外までつながるネットワークを持ち、ISP同士でつながることで世界のインターネットができあがっているわけです。通信事業者はISPからの利用料で国際ケーブルへの投資を回収します」 NTTコムの2008年度の設備投資計画は1000億円ほど。すべてが回線の整備に使われるわけではないだろうが、私たちがISPに払うインターネットの料金は、ISPを通じてバックボーンの回線料に使われているのは分かった。それではISPのネットワークを維持するもうひとつのコスト、接続料というのは何なのだろう。インターネットの仕組みに詳しい、インテック・ネットコアの荒野高志社長に聞いてみた。 ■ISPは階層構造 「ISP同士での接続料は相対で決まります。一般論として同じような会員規模で同規模のネットワークを持つISP同士なら、ピアリングで費用を折半します。お互いに直接つながっているほうが、会員同士がほかのISPを遠回りせずスムーズに接続できるメリットがあるからです。ただし、力関係に差があるISP同士では片方が接続料を払ってつないでもらう、トランジットになることが多いといえます」 たとえば、日本のISPが米国のISPと接続したいと思い、海底ケーブルを借りてつないだとする。その場合、ピアリングなら費用は半分で済むが、トランジットなら全額。これは大きな違いだ。では、力関係というのは何で決まるのですか。 「顧客の数や、外部に接続するISPの数などです。多くの人が使っていて、さまざまな国のISPと接続しているISPとは、誰もが接続したいと思います。逆に大きなISPは小さなISPとつながるメリットはあまりないので、小さなISPはお金を払ってつないでもらうしかありません」 「力関係でISPは大きく3つの階層に分けることができます。最上位にあるのがティア1(Tier1)と呼ばれる数社で、すべて米国にあるとされています。そのティア1に接続しているISPを1次ISP、ティア1にはつながっていない、1次ISPより規模の小さいISPを2次ISPと呼びます。階層が違うISPがつながる場合は、上位に対して下位のISPが接続料を払っている可能性が高いです」 ■ティア1は「秘密結社」 それなると、もらう一方のティア1は大もうけですね。 「そうですね(笑)。ティア1のISPはティア1同士で接続しており、世界の主要なISPへとつながっています。NTTコム傘下の米ベリオなどが知られていますが、実は事業者のすべての名前が明らかになってはいないなど、ベールに包まれた『秘密結社』なのです」 オープンと考えていたインターネットの中核が秘密結社というのは驚きです。 「これにはインターネットの成り立ちが関係しています。始めは限られた人たちが相互に助け合う精神でスタートしたのですが、有料ISPが登場し利用者が増えたことで、回線の整備にお金がかかるようになったのです。ただ、先進国では会員数が昔のように伸びず定額制が広がった今でも、動画配信などインターネットのデータのやり取りは増え続けています。規模の小さい2次ISPなどは、回線料や接続料の負担が重くなる一方です。今後は再編が避けられないでしょう」 これはちょっと不公平な気がする。インターネットの出現が「世界のフラット化」に一役買ったなどと言われているのに、実はインターネットそのものがフラットではなく階級社会だったとは。同じような問題はほかにもないのか。次回はインターネットの内部に存在する不均衡をさらに探っていこう。 [2008年11月7日/IT PLUS] ● 関連記事● 記事一覧
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