更新:2008年11月6日 11:00インターネット:連載・コラム
インターネットのお値段ISPへの支払いは何に使われる? インターネットのお値段(1)
ブロードバンドのサービスが始まっておよそ10年。この間、通信回線はADSLからより速い光へと進化し、料金も着実に下がり続けた。ところが、ここにきて一部で値上げがあったり、「料金制度を見直すべき」という議論が起きたりしている。なぜユーザーがこれだけ増えているのに値下げの余地がないのか。インターネットの「お値段」がどう決まっているのかを改めて探ってみよう。 そもそもインターネットの料金とは何だろう。インターネットを使うにはパソコンを買ってきて、プロバイダー(インターネット・サービス・プロバイダー、ISP)と契約すればいい。ISPに支払っている毎月の料金が我が家のインターネット代といえそう。一般的なパッケージ料金「@ニフティwithフレッツ(一戸建てタイプ)」で月額6400円(税抜き)。この料金は何に使われているのだろう。ニフティの木村孝・経営補佐室担当部長に聞いてみた。 ■ISP料金の内訳 「非常に大まかに言うと、お支払いいただいた料金のうち、ニフティが受け取るのは1200円ほどです。残りは地域回線網の使用料が4100円、パソコンを回線につなぐための機器のレンタル代が1100円となります。このうち地域回線網は、東京にお住まいで『withフレッツ』ならNTT東日本に払います。本来、ISPと回線事業者のそれぞれと契約して料金を払うのを、ISPがお客様にパッケージにして提供しているのです」 回線事業者とISPそれぞれと契約しなくてはならないのはどうしてですか。 「インターネットのつながる道のりを考えると分かりやすいかもしれません。まず自宅のパソコンから発信された情報は、電話会社などの回線、地域網に流れます。この地域網はNTT東日本やNTT西日本、KDDI、電力会社系の企業などが提供しています。地域網は各世帯の間に網の目のように張り巡らされています」
「地域網は各県でだいたい1カ所あるPOI(Point Of Interface)で、ISPのネットワークと接続します。ISPは各社がそれぞれネットワークを持っています。このネットワークはISPの規模によって、全国規模であったり地域限定であったりします。さらにISPのネットワーク同士は接続しており、ISPからISPへと情報が流れ世界中とつながります。いわばISPとISPのつながりがインターネットの世界なのです」 ■ISPという会社のコスト では、ISPの運営にはどんなコストがかかるのですか。 「ISPは回線を借りたり、自ら敷いたりしてネットワークを構築しています。地域網から受け取ったデータをISPのサーバーに運び、さらにインターネットに送り出すためのネットワークです。ところが、インターネットを利用する人が増え、しかも画像や動画など大量のデータがやり取りされるようになりました。遅延なくデータを送れるようにするには、この回線を太くする、つまり増やし続ける必要があります。そうなると、回線を借りたり敷いたりするコストが増えます」 「またインターネットでデータをやり取りするには、回線をつなぐルーターも必要です。ルーターは回線や扱うデータ量に応じてたくさん必要になります。大量のデータに対応するためにISPのルーターは1台数千万円かかるものもあります」 「ほかには会員宛に届いたメールを保存するサーバー、自社のサイトで提供するコンテンツの調達費など会員向けの各種サービスに費用が発生します。会員の方から電話で使い方などの相談を受けるサポートの費用や、営業、宣伝、管理費もかかります」 実際、ニフティなど何社かのISPは昨年、こうしたコスト増を理由に光サービスのマンション向けプランを値上げしている。マンション向けはもともと戸建て向けよりかなり低い料金だったとはいえ、値上げであることに変わりはない。光回線のユーザー数はADSLを逆転して伸びている時期なのだが、ISPの企業努力で吸収することはできなかったのだろうか。 「これまでは会員の伸びで収入を増やし、技術革新で運営コストの削減を進めてきました。ISP間の競争で価格を下げてきた面もありました。しかし、先に挙げたようなネットワークを維持していくためのコストが大きく、今はどのISPにも共通する負担となっています」 ■地域網の料金は? なるほど。仮にISPの負担が限界だとすれば、もう一つ、全体のうち4100円とかなりのウエイトを占めている地域回線網の料金はどうだろうか。地域の回線網ではNTT東日本と西日本が合わせて7割のシェアとダントツ。NTT東日本のブロードバンドサービス部サービス開発担当の仲山洋担当部長に聞きに行った。 インターネットの回線はどこにあるのですか。 「光ファイバーは地中に埋めたり、電柱を這わせたりして一本一本敷いています。電柱の垂れ下がったところの黒いケーブルは電話線、青いケーブルは光回線です。もっとも電柱にはいろんな線がつながっているので、他社のと間違われるといけませんが(笑)」 「家のパソコンのデータはそのままでは回線に流せないため、宅内装置で変換されて地域回線網をたどってISPにつながります。NTT東日本はみなさんに宅内装置から先の、ISPにつながるまでの回線を提供しています(図2の◎と◎の間)。この部分の回線を敷き、維持するコストを負担しているのです」
ちなみに今年度の地域網(アクセス網)の光化投資額は1900億円だそう。一軒一軒家の前まで光ファイバーを敷く工事に千億円台の投資が必要なわけだが、地域網の料金はユーザーが増えれば下がるのか、それともISPと同様、負担が大きくなり値上がりしていく方向なのか。 「現時点では値上げは想定していません。今の料金は基本的に工事のコストや将来の利用者の予測などを勘案して設定しています。以前は光ファイバーそのものの値段が高く、利用者が限られていたため高額でした。今では回線が張り巡らされて多くの人が使うようになってきたので効率がよくなり、ここまで料金を下げられるようになってきたのです」 どうやら地域網の値上げはなさそう。とはいえ、この先どんどん値下げをしていくという感じでもない。NTTが今年5月にまとめた中期計画でも「光サービスを2011年度に黒字化する」という目標はあるが、値下げの具体的な計画はないようだ。 地域網をもっと値下げすることは難しいのかという疑問は残るが、ここまでの話でISPが負担する「ネットワーク維持コスト」がインターネットの値段に大きく関わっていることが見えてきた。それは具体的にどのような中身なのか、次回さらに話を聞き進めていこう。 ● 記事一覧
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