トヨタ自動車が本年度の営業利益見通しを一兆円下方修正した。景気減速は雇用も直撃している。雇用を守り日本経済を浮揚させる−。世界のトヨタだ。こんな時こそ、その底力を見せてほしい。
七日の東京株式市場。トヨタの株価が一時、値幅制限いっぱいのストップ安、三三一〇円まで値を下げた。来年三月期の営業利益は前期比74%減の六千億円、業績予想を一兆円下回る。トヨタが発表した衝撃的な業績見通しに対する市場の回答だった。
世界の自動車市場は米国発の金融危機で縮小に拍車がかかっている。トヨタは稼ぎ頭の米国市場での落ち込みが激しく、十月の販売台数は前年同月に比べ二割以上も減った。金融危機をきっかけにローン会社の融資が厳しくなった。原油高による車離れも続いている。人気の高い燃料多消費の大型車を主力とする米ビッグスリー、中でもゼネラル・モーターズは45%も減らした。ピックアップ・トラックで大型車に参入したトヨタも燃料多消費ゆえに不振だ。
自動車産業の失速は止まらず、トヨタは三月に九千人近くいた期間従業員の削減を始めた。来年三月には三分の一の三千人に縮小するという。人員削減は日産や日野自動車などにも広がり、いずれも身分が不安定な期間従業員が対象にされている。
国内メーカー十社の正社員は十七万人、車体、部品メーカーなどの下請け企業や販売会社も含めると二百万人に上る。自動車メーカーの雇用や経済に対する社会的責任は極めて重い。
トヨタの奥田碩前会長は「万策尽きるまで雇用は守る」と述べたことがある。簡単に人員削減という雇用調節をしていいものか。かつてのように雇用を守り、生活を支えるために、ぎりぎりの努力ができないだろうか。
自動車の販売不振は燃料高や金融危機、若者の車離れが原因といわれているが、そんな一時的な現象とは思えない。日本の勤労者は三分の一を非正規社員が占め、年収二百万円のワーキングプアは一千万人に達している。自動車購入の意欲が生まれるはずがない。このままでは自動車産業も展望が開けない。
消費者の志向は低燃費車に向かっている。地球環境を守るためにも低燃費車やエコカー開発は進むべき方向だが、日本の産業をリードするトヨタだからこそ、何より雇用安定や勤労者の生活改善を優先させることを望みたい。
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