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【主張】高齢者の犯罪 社会全体で防止に努めよ
今年の「犯罪白書」は、高齢化社会における高齢者犯罪の実態をまとめた。65歳以上の高齢者の犯罪が激増しており、早急な対策が遅れると、治安上深刻な事態を招きかねない。
白書は法務省の法務総合研究所が毎年、公表しているもので、昨年の犯罪統計をもとにわが国の犯罪動向と犯罪者の処遇などを分析した。
今回の白書の特集は、「高齢犯罪者の実態と処遇」で、高齢者の犯罪を防止し、また犯罪受刑者の更生をどう図るかが、わが国の刑事政策上の重要課題の一つであると指摘する。
犯罪の認知件数は、平成14年をピークに5年連続減少傾向にあり、治安は改善されつつある。しかし、高齢者の犯罪は増加し続けており、予断を許さない状況だ。白書によると、この20年で高齢者の人口は2倍になったが、検挙された高齢者は約5倍にも達したことがわかった。
同研究所は、今のうちに高齢犯罪者の増加を押さえ込まなければ、5年後に「団塊の世代」が高齢者の仲間入りをすることから、犯罪者数はさらに増え、多数の高齢受刑者が生まれるおそれがあると予測する。
さらに、米国発の経済危機が日本にも影響してくると、不況の波が押し寄せ、生活に困った高齢者が犯罪に走る可能性が高くなることが心配される。
平成9年のバブル崩壊後の不況で犯罪が多発し、治安の悪化を招いたが、その現象が再来するのではないかと、法務総合研究所が懸念するのも当然だろう。
高齢犯罪者に目立つのが窃盗で、その大半が万引である。とくに女性の万引の比率が高いという特徴が出ている。万引防止への対応が、高齢者犯罪を抑制する一つのカギを握っている。
白書では、高齢犯罪の受刑者ほど、社会的孤立や経済的不安といった深刻な問題や悩みを抱えていることも指摘する。
家族や親族、国、自治体の福祉関係の各機関や地域社会が一致協力して、受刑者を温かく迎え入れ、社会からの孤立感を取り除いていくことが肝要だ。自立を促す努力も必要だろう。
高齢の受刑者は、社会へ出てからも就労意欲があるだけに、関係機関や民間のNGO団体などによる就労支援が求められる。社会全体で犯罪防止策を考えたい。