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「対岸の火事」ではない北朝鮮の偽札問題(2006/1/23)

中国中央テレビが放映した、北京の人民大会堂で中国の胡錦濤国家主席(左)と首脳会談に向かう北朝鮮の金正日総書記の映像=1月18日〔共同〕
 北朝鮮による紙幣偽造問題を巡り、米国と北朝鮮が水面下で激しい駆け引きを演じている。金正日総書記は極秘で中国各地を訪問し、締めくくりとして胡錦濤・中国国家主席と会談。その中身は不明だが、偽札問題を発端に緊張が高まっている米国との関係修復に向け、意見交換をした可能性が高い。これに歩調を合わせて、ヒル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)も北京入りし、北朝鮮の金桂官外務次官と極秘裏に会談したという。

根深い偽札問題

 米政府は昨年秋、北朝鮮によるマネーロンダリング(資金洗浄)に絡んで、マカオの銀行への実質的な制裁を決めた。これに対して、北朝鮮は激しく抗議。その延長として、第5回6カ国協議への復帰を拒否している。

 ブッシュ米政権が北朝鮮を「犯罪国家」と呼ぶ根拠とした偽札問題の根は深い。米政府筋によれば、連邦捜査局(FBI)が過去数年以上にわたって、北朝鮮による違法行為について捜査を続けている。巷間、「スーパー・ノート」の名称で知られるようになった偽ドル札は当初、FBI、財務省、そしてシークレット・サービスの関係者の間では「C―14342」のコード・ネームで呼ばれていた。

 FBIはその出所や製造方法、流通ルートなどを慎重に探り、いくつかのケースで動かぬ証拠を見つけたもようだ。FBIによる捜査の中には「ニューヨークに近い娯楽リゾートとして知られるアトランティック・シティで、偽札や麻薬持ち込みの現行犯として北朝鮮人グループを摘発、逮捕したケースもある」(米政府筋)。米政府筋によれば、このグループは日本に関する犯罪行為についても関与していた疑いがあるとFBIは見ている。

日本円偽造の可能性も

 こうした経緯を踏まえ、米政府は水面下で日本に警告を発信するとともに、事態への善処も進言していた。米政府筋によれば、ヒル次官補の前任であるケリー前国務次官補が6カ国協議の米国代表を務めていた頃、ケリー一行は通常の協議相手である外務省や防衛庁だけでなく、財務省、日本銀行の担当者との面会も求めた。FBIによる内偵などの結果、北朝鮮がドル札だけでなく、日本の円紙幣についても偽造している恐れがあるということを伝える目的だったが、当時のやり取りに詳しい元米政府当局者によると、日銀関係者らの反応は鈍かった。

「日本のお札は特殊な木材を使っているので、北朝鮮はもちろん、誰にも偽造される恐れはない」。日本側の反応に米側はただ、言葉を飲み込むしかなかった、とこの元米政府当局者は振り返る。

 この問題について、昨年末、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長から退いたグリーン前大統領補佐官は読売新聞との会見で、北朝鮮がドル札だけでなく、円や中国の人民元を偽造している可能性を指摘。この中で、前補佐官は「国際市場で、米ドルだけではなく、円や人民元、ユーロなどに使われているのと同じ色のインクを購入している」と明らかにしている。

 米国務省の中でも対北朝鮮強硬派と見られるジョゼフ国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)は昨年末、訪米した前原誠司民主党代表との会談で、「北朝鮮はまるで犯罪企業のようだ」と指摘。今後、その犯罪行為の摘発に向け、日本や中国中などとも連携を図りたい意向を示した。

米、北朝鮮の「犯罪」摘発に全力

 バーシュボウ駐韓米大使によれば、北朝鮮による紙幣偽造や資金洗浄問題などを協議するため、米財務省代表団が近く訪韓。代表団は北朝鮮がマネーロンダリングに利用したとみて、米国が昨年秋に金融制裁を科した銀行のあるマカオも訪問している。

 こうした米政府高官による一連の発言は、ブッシュ政権が今後も北朝鮮による「犯罪行為」の摘発に全力を挙げることを強く示唆している。一方の北朝鮮は「後ろ盾」と頼む中国の力も借りながら、この偽札問題をどう切り抜けるかについて、躍起になっている可能性が高い。マカオの銀行制裁に対する北朝鮮の激しい反発や、金総書記による異例の訪中などを見ても、北朝鮮の動揺は見て取れる。

 国家的な犯罪ではなく、個人による偶発的な犯罪行為とすることなどで、北朝鮮が米国との「落とし所」を探る可能性も取りざたされているが、現時点でこの問題がどのように解決するかは不透明だ。確かなことは日本が偽札問題を「対岸の火事」のように見ていられる時期は終わったということではないだろうか。ドル札に続いて、円の偽札が大量に流通する事態を未然に防ぐことは言うに及ばず、北朝鮮の資金源を押さえた上で「北朝鮮による協議復帰→核兵器開発断念」へとつなげる米政府のシナリオは、そのまま日本の戦略にも合致する。偽札問題を巡る米朝の攻防は今後、様々な側面から日本の北朝鮮戦略にも影響を与える可能性が高いと思われる。


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