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社説:守屋被告実刑 「次官の犯罪」で終わらせるな

 「防衛行政全般に対する国民の信頼を失墜させた」。前防衛事務次官の守屋武昌被告に懲役2年6月の実刑を言い渡した東京地裁判決は、そう断罪した。

 防衛庁・省の要職を駆け上がる過程で、特定の業者から13年間に400回近くのゴルフ・旅行接待や現金提供を受け、見返りに防衛装備品調達で便宜を図った。立件された収賄額1250万円は次官当時のものに過ぎない。「規範意識の乏しさには誠に驚きを禁じ得ない」と判決が嘆いたのも無理はない。前次官は控訴したが、実刑判決は当然だろう。

 1949年に事務次官という役職ができて以来、「次官の収賄」が罪に問われたのは4人目で、実刑判決は2人目。収賄額6369万円の元厚生次官の実刑(懲役2年・確定)に比べて量刑が重いのも、公務員不祥事が相次ぐ昨今、官僚トップにより一層の清廉さを求めようとする司法の姿勢がうかがえる。

 事件が問いかけたのは、前次官の個人的な犯罪だけではないはずだ。何ら監視機能を働かせることができず、事務次官に上り詰めることを見逃し、4年もの長きにわたる君臨を許した防衛省の実態が露呈した。文官(背広組)のトップが暴走しても、国民から選ばれた防衛相ら政治家(文民)のチェックが及ばない組織の問題点が浮かんだ。

 防衛省改革会議の報告書を受けて省は今年8月、改革実現に向けた実施計画をまとめた。組織改革では▽文民、文官、自衛官(制服組)の3者幹部が重要事項を審議する防衛会議を法律で位置づける▽有識者による防衛相補佐官(3人以内)を新設し、進言してもらう--など、文民統制(シビリアンコントロール)強化が柱だ。組織改革は重要だが、それだけで再発防止が果たせるとは思えない。

 公判を通じ、前次官は露骨に贈賄側業者名を挙げるなどして複数の装備品の導入を検討するよう、それぞれの担当課長らに指示し、導入が実現していたことが明らかになった。不自然とみられる指示に部下らはどう動いたのか、いぶかる声は上がらなかったのか、との疑問が生じる。ところが、防衛省は担当課長らからのヒアリングなどを一切行っていないという。事件の検証なくして、再発防止への教訓は得られまい。

 贈賄側業者が防衛省に水増し請求していた不正も22件あることが判明し、省は刑事告発する意向を示していたが、事件から1年になる今も調査中という。これでは本気でうみを出し切ろうという姿勢は読み取れない。防衛行政への信頼回復はほど遠い。

 防衛利権をめぐる捜査のメスはさらに政界などへも広がることを多くの国民は期待したが、汚職摘発は前次官のみにとどまっている。腐敗の全容解明が尻すぼみに終わるのでは、国民の納得は得られない。

毎日新聞 2008年11月7日 東京朝刊

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