福岡県の筑豊と京築地方を結ぶ第三セクター「平成筑豊鉄道」(同県福智町、49.2キロ)は、駅に企業名や商品名を付ける「施設命名権(ネーミングライツ)」の販売に乗り出した。全国の三セク鉄道では初の試みだ。利用者の減少などで、2007年度決算では累積で初の赤字を計上。生き残りに向けた模索が続く中、新たな取り組みが現状を打開する「救世主」となるか。
「駅の施設命名権を売り出したい」。6月27日、同県田川市内で開かれた同鉄道取締役会。出島静吾専務(55)は役員の9市町村長を前に“秘策”を切り出した。
命名権は、公共施設や野球場などに企業名や商品名を付ける権利。九州では、プロ野球福岡ソフトバンクホークスの本拠地に名付けられた「福岡Yahoo!JAPANドーム」(ヤフードーム)がこれに当たる。熊本県南部を走る三セクの「くま川鉄道」(人吉市)も今月、同じく命名権販売を決めた。
「球場や市民会館などで命名権を販売している。それを駅でも導入できないだろうか」
全社員約60人が妙案を絞り出し、4月にまとめた結論が命名権の設定だ。同社はこれまで、枕木に出資してもらう「枕木オーナー制度」やレトロ調車両「へいちく浪漫号」の導入など増収策を打ち出してきた。中でも、年間5000円を出資してもらい、列車内のつり革にメッセージなどを書き込んでもらう「つり革オーナー制度」は九州初。売り上げも順調に推移しているという。
アイデアマンらが打ち出した次の一手に、取締役会で居並ぶ市町村長から異論は出なかった。
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対象は、35の駅のうちすでに施設名が駅名になっている2駅を除く33駅。使用料はJRとの乗り入れがあり、利用者が多い行橋駅(福岡県行橋市)や田川伊田駅(田川市)など5駅が年間250万円。ほかは利用者数に応じ、40万円と70万円、130万円の計4種類とした。
購入した企業や法人は、企業名や商品名などを駅舎の駅名表やホームの行き先案内表、時刻表に掲載。車内放送でも流される。9月に発売し、11月28日まで販売。契約は来年4月から1年以上となる。
企業や法人は宣伝効果が上がり、同社に定期的な収入が確保できる仕組み。すべての駅で命名権が設定されれば、数千万円の収益が見込まれる。
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すでに、東証一部上場企業や沿線の企業など数社が名乗りを上げているほか、制度の詳しい内容を尋ねる企業もあるという。
かつて「三セクの優等生」とされた同鉄道。だが、沿線の人口減やマイカー普及による利用者減や燃料費高騰が重なり、07年度決算は1989年の開業以来初めて約1380万円の累積赤字に転じた。利用客数も約203万人で、ピーク時(1992‐94年度)の約6割に落ち込み、経営改善は最重要課題。観光路線ではなく、地域の生活路線だけに地道な取り組みが欠かせない。
「会社の認知度を上げる意味も大きい」。ホームページによるPRのほか、前田忠営業部長(65)は積極的な売り込みのため、社員にハッパをかける毎日だ。それが功を奏し、来春には「まもなく○○自動車 田川伊田駅」、「次は、××電力 直方駅」などユニークなアナウンスが車内に響くかもしれない。 (佐伯浩之)
=2008/10/27付 西日本新聞朝刊=