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2008年11月7日

 暦の上ではきょうは「立冬」、冬に入る。木々が葉を落として冬支度の真っ最中だが、何といっても北陸の心躍る風物詩は、ズワイガニの水揚げであろう

石川で「加能ガニ」と名付けて売り込むズワイガニは、そう簡単に手の出る代物ではない。遠来の客のもてなしにカニを注文されても、ためらう。そんな時は、おでん屋へ連れて行く。土地独特のネタ「カニめん」を食べさせると、たちまち顔をほころばせる

ズワイの雌のコウバコガニの殻に、カニの身も内子(うちこ)も外子(そとこ)も詰めて、カンピョウやたこ糸でくくる。子の赤と身の白が美しい。身をほじくる手間もいらない。だし汁のうま味が加わったごちそうである

土地の人は、コウバコこそ格別、と言う。ズワイに手が届かぬ負け惜しみかと思っていたら、「コウバコの逸品をご存じか」と、料理人に言われた。解禁から2週間ほどたって水揚げされたカニの中には、小さなズワイほどに育ち、身が甘みを増し、カニみそも濃厚なコウバコが現われるのだという

つらい冬は歓迎したくないが、海からは美味が届く。苦あれば至福も。北陸の冬は奥深い。


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