米大統領選は「変革」を掲げた民主党のオバマ上院議員が激戦の予想された州でも着実に票を伸ばして共和党のマケイン上院議員に圧勝し、八年ぶりの民主党政権奪還を果たした。黒人が大統領に選ばれたのは米国史上初めて。
米国は、深刻な金融危機と泥沼化するテロとの戦いに苦しんでいる。支えてきた経済と軍事の二本柱が揺らぎ、世界唯一の超大国の権威は失墜した。大統領選は再生の担い手を選ぶ重要な場だった。
豊かな経験をアピールするマケイン氏に対し、上院議員一期目のオバマ氏は「変革」を旗印にブッシュ共和党政権からの脱却を呼び掛けた。米大手証券会社の破たんなどによる金融危機の深刻化が現政権への批判を高める追い風となり支持を広げた。
マケイン氏は、ブッシュ大統領と一線を画す戦術に出たものの政策でブッシュ色がぬぐい切れず及ばなかった。
負の遺産越えて
人種偏見が根強い米国で黒人の大統領という歴史を塗り替える選択になったのは「何とか苦しい現状を変えてほしい」との米国民の差し迫った心境の表れといえよう。
大統領への就任は来年一月二十日だが、状況は刻々と動いている。オバマ氏は世界のリーダーとしての信頼回復へ向けて「変革」の準備を急ぐとともに、選挙戦で訴えた人種や党派を超えた「米国の結束」の実現に力を注ぐことが必要だ。
オバマ政権が発足すれば、ブッシュ政権の「負の遺産」が待ち受ける。最大の課題は経済問題だ。サブプライム住宅ローン問題に端を発した金融危機は、米国内にとどまらず世界経済に脅威を及ぼしている。震源の米国が果たすべき役割と責任は重い。
オバマ氏は金融安定化のため最大七千億ドルの公的資金を注入するブッシュ政権の処方せんを継承するとともに、景気の刺激策として中低所得層向けの六百億ドル規模の減税や雇用創出策などを打ち出した。しかし、米財政が厳しさを増す中で財源をどう工面するか定かでない。期待が大きいだけに、失敗すれば打撃はこれまでの比ではない。明確な道筋と実践が求められる。
脱「一国主義」
経済問題とともに大統領選の大きな争点となったのが、多くの犠牲を払ってきたイラク戦争への対応である。オバマ氏は早期終結と、約十五万人の駐留米軍の「就任後十六カ月以内の撤退」を公約した。果たして、テロの再燃を防ぎつつ公約通り撤退できるのかが問われる。
イラク戦争もそうだが、ブッシュ政権の外交・安全保障では他の国々の忠告を受け入れず、独自の判断で進んでいく「一国主義」が国際社会で物議を醸し、摩擦や孤立を生んできた。
それだけに対話を掲げるオバマ氏がどんな外交・安全保障のスタンスをとるかに関心が集まる。いまや、国際的な協力や連携なくしては解決できない問題が数多い。決してブッシュ政権の轍(てつ)を踏んではならない。
大統領選とともに行われた連邦議会の上下院選でも民主党が勝利した。オバマ氏にとっては大きな力になる。世界との協力関係を強め思う存分力を発揮してもらいたい。
新たな日米関係へ
小泉純一郎元首相とブッシュ大統領の個人的つながりを基に、蜜月状態が続く日米関係もオバマ氏の当選によって一つの転機を迎える。
共和党政権に比べ、民主党は日本への関心が低く対処しにくいとの見方が一般的だった。先行きを懸念する向きも多い。これを意識してか、オバマ氏は出馬表明以来、対日配慮の姿勢を示してきた。
だが、重要な課題に当たって考えが一致するかは定かでない。オバマ氏はイラクからの駐留米軍の早期撤退の一方で、アフガニスタンでのテロとの戦いの必要性を指摘しており、海上自衛隊のインド洋での給油活動を上回る要求の可能性も考えられる。ブッシュ政権による北朝鮮のテロ指定解除にも支持を表明、日本との温度差は否めない。
蜜月関係が良いとは限らない。小泉政権では同盟強化の名のもとにイラクへの自衛隊派遣など米国への追随が目立った。日本政府と民主党政権が積極的な対話を図り、互いに厳しい意見が交わせる真の関係づくりを求めたい。