米大統領選で民主党のバラク・オバマ上院議員が勝利したことで、米国の通商政策は今後、保護主義色を強めるとの見方が多い。金融危機の渦中にある米国では自動車大手3社が経営危機に直面しており、日本メーカーからは「労働組合を支持層に抱えるオバマ氏による日本への風当たりが強まるのではないか」との警戒の声も漏れている。
「北米自由貿易協定(NAFTA)は見直す」「日本や韓国にハイブリッド車は作らせない。これからは米国で作る」−−。大統領選中のオバマ氏の演説には、常に保護貿易主義が色濃く映し出されている。議会の承認待ちになっている韓国やコロンビアとの自由貿易協定(FTA)にも反対を表明。中国に対しても「公正な貿易を阻害する人民元相場への介入をやめるべきだ」と批判を繰り返す。
共和党のブッシュ現大統領が自由貿易体制の推進に積極的だった一方で、民主党は保護主義的色彩が強い。7月に米国とインドとの対立で決裂した世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は、今後も米国が重要なカギを握るだけに、オバマ氏の通商政策に注目が集まる。
日本政府は「世界経済が危機的状況の今こそ、自由貿易体制の確立は世界共通の大命題。よもや交渉を後退させることはないだろう」(経済産業省幹部)と期待を込めながら、オバマ氏の出方を慎重にうかがっている。
また、オバマ氏は脱石油と環境への配慮の一環として、次世代型のプラグイン・ハイブリッド車の開発支援を打ち出している。「15年までにガソリン1リットルで65キロ走行できる国産車を100万台にする」と主張するなど、ビッグ3への支援をにじませている。3社は、日本メーカーとの小型車の競争で大きく後れを取ったことなどで苦境に陥っており、新政権が次世代自動車で3社の競争力を高めて巻き返しを図る中で、日本企業への風当たりが強まる恐れがある。
ただ、トヨタ自動車をはじめ日本メーカーは既に、米国内の工場進出を通じて現地での雇用創出に貢献しており、90年代のような貿易摩擦が再燃するとは考えにくいとの見方が日本国内では大勢だ。一方、「労働組合に有利な法案が成立するなどして、現地工場のコスト増要因になる可能性はある」(日本の自動車大手)との声もあり、これまで以上に米政府の動向への気配りが必要になりそうだ。【宮島寛、ワシントン斉藤信宏】
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