大阪市内の賃貸マンションで家賃を滞納した衣料品店員の男性(26)が、留守中に無断で市内の家賃保証会社に新たな鍵を付けられたとして、会社と家主に住居の使用妨害を禁止する仮処分を17日、大阪簡裁に申請した。男性は鍵業者に頼んで開錠し、代理人が分割払いを交渉中だが、会社は明け渡しを求めているという。保証会社を巡っては、取り立てや明け渡し請求の強引な手法が各地で問題化しつつあり、仮処分が認められればトラブル抑制につながると期待される。
申請書などによると、男性は7月、大阪市東住吉区の敷金・礼金なしの賃貸マンションに入居した。契約時、連帯保証人を付けたが、仲介業者から指示された保証会社とも契約(有料)した。滞納時に保証会社が家主に滞納分を支払い、入居者に事後請求するという内容だった。
男性は家計管理に不慣れで8、9月分の家賃を滞納した。保証会社は9月上旬、「滞納家賃を支払わないと、玄関ドアに鍵をかける」との通知書をドアに挟み、2日後に鍵設置のため再訪問。男性は「1週間後に2カ月分を支払う」との念書を書き、引き取ってもらったという。
しかし、多忙で帰宅できない日が続き、支払わずに1週間たつと、保証会社が留守中にドアを無断で開け、追加の鍵を取り付けたうえ「無断立入禁止」「連絡なき場合は明け渡しの手続きをとる」などと書いた紙を玄関に張り付けたという。帰宅した男性は張り紙の連絡先に電話し「鍵を開けて」と頼んだが、「お前が金を払わんから悪いんやろ!」と怒鳴られ、電話を切られた、としている。
翌日、男性の相談を受けた司法書士が電話で交渉したが、保証会社は鍵の取り外しに応じず、再び無断で玄関を開け、別の鍵と取り替えた。男性は鍵業者に頼んで開錠し家に入ったが、保証会社は数日後にも留守宅に無断で入り督促状を置いていったという。
男性の代理人の堀泰夫司法書士は「裁判を経るという借地借家法の明け渡し手続きを無視した犯罪的な追い出し行為を食い止める必要がある」と話す。保証会社は「申立書を見ていないので、コメントできない」としている。【岩崎日出雄、前田幹夫】
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■解説
賃貸住宅の保証会社は、敷金・礼金ゼロの「ゼロ・ゼロ物件」や格安敷金の物件の増加とともに、ここ数年で急増した。家賃を踏み倒されても敷金・礼金から充当できないためで、入居者から保証委託料をとって滞納時に代わりに支払い、事後回収するシステムだ。
保証会社が明け渡し手続きを代行する場合も多い。明け渡しは本来、裁判の判決に入居者が従わない場合に初めて強制執行が許されるが、保証会社が裁判を経ず、突然鍵を取り付けたり家財を搬出するなど実力行使に出るケースが多発し、社会問題化し始めている。
消費者金融など貧困問題に詳しい木村達也弁護士(大阪)は「借り主が保護される借地借家法の脱法行為で、まん延すると法の支配が崩れる」と憂える。
今回の保証会社は当初、消費者金融会社の100%出資で「金融業で培った顧客管理ノウハウを活用」とうたっていた。不動産業者らによると、他にも金融業者からの転業は多いという。消費者金融の債権回収が金融庁ガイドラインなどで厳しく規制されるのに対し、保証会社の回収は規制がなく、必要が指摘されている。仮処分申請は規制策定に向けた取り組みの第一歩と位置付けられる。【岩崎日出雄】
毎日新聞 2008年10月17日 大阪夕刊