◆最近、集団感染が起きた「イヌブルセラ症」は、どんな病気?
イヌブルセラ症は、動物から人にうつる人獣共通感染症の一つ。ブルセラ・カニス菌(犬流産菌)の感染によって引き起こされる。「ブルセラ」という名称は、菌の発見者である英国人微生物学者デビッド・ブルースの名前と、微生物の分類に使われるラテン語の接尾辞「エラ」が合わさって付いた。国立感染症研究所(感染研)が03~06年、首都圏の動物愛護センターに保護された479頭を対象に行った調査では、2・5%に感染歴があった。
●まれに人にも
感染すると犬のオスは精巣炎に、メスは胎盤炎などによる流産を繰り返すようになる。人間はまれに犬の胎児などに接触して感染することがあり、頭痛や発熱など風邪に似た症状が出る。発症しないことも多く、人から人への感染例はない。犬、人ともに抗生物質で治療できる。予防ワクチンは開発されていない。
なお、人にうつるブルセラ症はイヌ以外にも、ヤギ・ヒツジ▽ブタ▽ウシ--の3種類があり、それぞれ症状が異なる。
●交尾や経口感染で
イヌブルセラ症は命にかかわるような重い病気ではないが、症状は分かりにくい。日本大学生物資源科学部教授で獣医学博士の津曲茂久さんは「流産が続き、検査を受けてみて初めて気付くケースがほとんど」と話す。
日本では71年、米国から輸入された実験用の犬で初めて感染が確認された。犬同士では交尾で感染することが多いが、授乳や、流産した胎児や出産時の分泌物、尿をなめることによる経口感染も目立つ。多頭飼育の場合、1頭感染すると広まりやすいので注意が必要だ。
感染研が03年以降、把握している集団感染は静岡や沖縄、愛知など計5件。いずれも繁殖施設やペットショップで起きた。07年、大阪府内の繁殖施設で発生した際は、府が100頭以上を殺処分する結果になった。
先月、集団感染が判明したのも、東京都品川区のレンタル犬サービス会社。検査の結果、2店舗で飼われていた59頭のうち、18頭が陽性、38頭が疑陽性と判明した。また、店舗内のペットホテルを利用した飼い犬数頭からも疑陽性の反応が出た。
●検査は継続的に
では、飼い犬に感染の疑いがある場合はどうすればいいのか。千葉県庁衛生指導課の佐藤至さんは「避妊や去勢手術をしていればリスクは低いが、心配なら動物病院で検査を受けてほしい」と呼びかける。
検査では、菌の増減を数カ月おきに見る必要がある。陽性なら、抗生物質の投与や注射を施し、菌の増減を見ながらの治療を行う必要がある。他の犬との接触を避け、排せつはなるべく室内ですませるよう心掛ける。散歩するなら、排せつ物に30倍程度に水で薄めた塩素系消毒液をかけて殺菌し、感染拡大を防ぐようにする。
感染研獣医科学部室長、今岡浩一さんは、「犬と飼い主の健康を守るため、業者や施設は自主的に検査をするのが当然だ。飼い主も犬を購入する際に、検査したかどうか聞くなど、注意してほしい」と話している。【田後真里】
毎日新聞 2008年11月5日 東京朝刊