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 「ラキオスが墜ちた・・・だと?」

 その声の主は驚愕していた。まるで信じられないというように。それを見て、口の端が緩むのを抑えながら何とか平静を装う。

 「ええ。先ほど情報部のほうからそのように報告書が来ましたから・・・」

 「香織は! 僕の香織はどうなったんだ!」

 「さあ・・・ですが王女と民間人らしい人間が、ラキオスの生き残りと一緒にイースペリアに渡ったと書かれていましたねえ。くっくっく・・・」

 思わず笑いがこぼれる。報告書にはしっかりと『エトランジェの妹』と書かれていた。報告の内容に少しは落ち着いたのか、こちらの嘘を見抜いたのか・・・恐らくは後者だろう。目の前の男――シュンが口を開く。

 「そうか・・・香織は無事なんだな」

 シュンが安どの表情を浮かべる。それを見ながら報告書の内容を話す。これが最も重要な事である。

 「報告の内容によりますと、バーンライトにもエトランジェがいるようですね」

 その言葉に多少の興味を覚えたのかシュンの目の色が少し変わる。

 「エトランジェ?・・・だと」

 「ええ。情報部はいったい何をしてたんでしょうかね・・・」

 「ソーマ。バーンライトはお前に任せる」

 こちらの言葉を無視するようにシュンが言う。そのままどこかに行こうとする。

 「エトランジェ様は、どうなさるのですか?」

 部屋を出ようとするエトランジェを引き止める。シュンが振り返り、

 「貴様には関係ない・・・ダーツィもそろそろいらなくなったから始末しておけ」

 そう言うとソーマがわざとらしくうやうやしく礼をするが、それを確認する前に部屋を出る。あいつを見ていると嫌気が指す。誰もいない廊下に出たところで漏らす。

 「『誓い』の言っていた事と違う・・・香織、僕はどうすればいいんだ・・・」





5本目の神剣〜帰れない明日〜





 照り付けるような強い日差しの中、ヒエムナとケムセラウトを結ぶ分岐点でバーンライト、ダーツィの先遣隊が遭遇戦を展開していた。

 『欲望』を一閃させる。スピリットの体を引き裂きスピリットがマナへと還っていく。その一瞬をついたスピリットが志貴の横を通り過ぎた。

 「ニム! そっちに行ったぞ!」

 叫ぶ。だが、ニムントールは他のスピリットと戦っていた。その先には本隊が来るまでに守らなければならない物資がある。次の瞬間、志貴の横を先ほどより速く黒い影が横切る――ファーレーンだった。彼女はスピリットを背後から切り捨てるとニムントールと敵対していたスピリットを神剣で薙いだ。辺りから神剣の気配がしなくなる。どうやら今ので最後だったようだ。神剣を鞘に収め、ファーレーンとニムントールに近づく。

 「大丈夫か」

 そう言うと、やっぱりというかニムントールが不平をもらしてくる。

 「ニムのことちゃんと守ってよ!」

 「うるせえなぁ・・・俺だっていろいろと忙しいんだよ」

 額に浮かんだ汗を手の甲で拭いながら嘆息交じりにいう。ニムントールは悪びれた様子もなく言う。

 「それに、シキってエトランジェのくせにあんまり強くないし・・・」

 「それについては、・・・否定はしないさ」

 先ほどの戦闘を振り返る。自分が二人、ファーレーンが三人、ニムントールが一人つまりはスピリットと大差ない戦闘力と言う事だった。

 (ニムに馬鹿にされてもしかたないかな)

 「そんな事言ってはダメよニム。シキ様はずっと私たちをサポートしてくださったんですから。それに、今は私たちだけしかいないのよ」

 見かねたファーレーンがニムントールに言い聞かせるように言う。ニムントールは「はあい」とだけ言うと一応は黙ってくれた。

 「気づいてたのか?」

 「はい。体がいつもより軽く感じましたから・・・体のほう大丈夫ですか? 何だか苦しそうですけど」

 「・・・大丈夫だ。神剣魔法を長時間維持し続けるのに体力を使いすぎただけだから・・・少し、休めば・・・」

 手で制しながら言うが、突然足の力が抜ける。膝をついた状態で『欲望』の声がする。

 『限界ですね』

 (・・・そうだな)

 『欲望』の言葉を静かに認める。と、意識が途切れた。





 目が覚めると、真っ暗だった。

 「・・・」

 被っていた毛布を剥ぎ取り、起きる。今日は地元の中学校に入学式に行く日だ。いくのはもちろん自分だが、

 「あんま眠れなかったな・・・」

 普段は緊張とは無縁なのだが、今日のような日には決まって眠れなくなるのだ。時計を見ると、まだ五時になったばかりだった。だからだろうか何となく散歩でもしてみたくなった。

 「散歩にでも・・・」

 ――行くな――

 頭の中でその単語が浮かんだ。そうだ。行ってはならない。だが、

 「散歩にでも行ってみるか・・・」

 先ほどの違和感は消えていた。ジャージに着替えて他の皆を起こさないように家を出る。まだ朝日が昇るには少しだけ早い時間帯。紫色の空が目を引いた。

近くの公園に入りベンチでくつろぐ。

 「綺麗な空・・・」

 ぽつりと呟く。すると背後から声がした。思わず振り返る。

 「そうね。でも悲しいわ」

 ただの独り言に答えたのは背の高い若い女の人だった。

 「あの・・・どちら様ですか?」

 「あら、私の事を忘れたのかしら」

 「えっ?」

 次の瞬間ぐにゃりと視界が歪む。

 (あれ・・・意識が・・・)

 そこで気を失ってしまった。





 「あれ・・・ここは」

 「気がついたかね。ここは保健室だよ」

 よく見ると、確かにそこは保険室だった。白い壁、白いベット。

 「手ひどくやられたようだね。君の先生は手加減と言うのを知らないのか?」

 「ええ。なんだかそうみたいです・・・」

 意識がはっきりすると、次第に痛みもはっきりしてくる。頭を抑えながらうめく。

 「すみません。もう少し休ませてください」

 「構わないよ。どうせ今日は宿直だしね」

 意識がまた薄れてゆく。

・・・そうだ・・・これは・・・・・・あの時の・・・・・・・・・





 「遠野君」

 卒業式の帰り道、一人でぶらぶらと歩いていると背後から声を掛けられた。振り返ると少し離れたところにその人物はいた。目の前まで走ってくると、息を整えながら言う。

 「一緒に帰ろ」

 「友達はいいのか」

 少し離れた場所、つまりさっきまで彼女がいたところに数人の女子がいた。

 「う、うん、いいの。皆とはいっぱい話ししたから」

 「じゃ、行くぞ」

 暫く歩く。だが、彼女は一言も話さない。

 (そう・・・彼女は一言も話さなかった・・・そしてわかれたんだ。あそこで)

 分かれ道、それが数メートル先に見えていた。

 (今なら、変えられるはずだ)

分かれ道。そこで立ち止まって訊ねてみる。

 「なあ、高原。どうして俺と帰ろう何て思ったんだ?」

 「え・・・それは・・・・・・遠野君皆と違う高校に行っちゃうから・・・」

 彼女――高原の顔がぼっと火がついたように赤くなる。

 「・・・他にもあるだろ?」

 「ひぇ!?」

 予期せぬ事に声が裏返る。そりゃそうだろう。彼女が何で自分と『帰りたい』と言ったのか考えればこれは不意打ちと言ってもいい。それも意地の悪い。

 「なんてんな・・・あの時から俺は・・・きっとわかってたと思う。高原の気持ち、でも駄目なんだ・・・ここは俺のいる場所じゃないから、もう終わってしまったことだから・・・」

 「な、何言ってるの・・・」

 「俺達はここで分かれたんだ。違う道をたどった・・・だから、そうしないといけない。そうしなくてもそうなる。次、目が覚めたら俺はどこへ行くんだろうな・・・」

 「遠野君! どうしたの!?」

 「さようなら・・・高原。俺はもう行くよ」

 そして目を閉じる。すぐに意識が遠のき・・・





 「・・・今度はいつの俺だ・・・」

 風が頬をくすぐっている。木漏れ日が優しく光を差していた。

 『起きたのね』

 『欲望』の声がする。どうやら現実に戻ったようだ。

 「どれぐらい寝てた」

 『小一時間くらいかしら』

 それを聞いてゆっくり体を起こす。眠気は既に無くなっていた。

 近くにいたニムントールがこちらに気づいたらしく、近づき、隣に座る。

 「大丈夫なの」

 つっけんどんに言う。らしいと言えばらしかった。思わず頬が緩む。これでファーレーンみたいに心配されたら明日は雨だったかもしれない。

 「ああ。問題は・・・ない・・・ファーレーンはどうした?」

 体の各箇所を調べながら言う。

 「お姉ちゃんは、周り見てくるって」

 「そうか」

 それだけ言うと二人とも黙り込んでしまう。どうも自分は話しをするのが苦手のようだ。あまり長続きしない。向こうが話を振ってくるの待つ。話す事もないし、そうすることにした。

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・お姉ちゃん」

 「ん?」

 長い沈黙の末、ニムントールが口を開いた。それを何とはなしに聞く。

 「お姉ちゃん遅いね」

 寂しそうな声。普段の彼女からは想像できない声だった。先を促すように頷く。

 「そうだな」

 「シキはお姉ちゃんの事どう思ってるの」

 「は?」

 突然の事に思わず聞き返す。

 「言っている意味がよーわからんのだが」

 「だから、お姉ちゃんの事が・・・なの?」

 語尾が聞き取れずもう一度聞く。

 「何?」

 「だから!・・・その・・・す、き・・・なの?」

 「・・・・・・・・・」

 「ちょっとなんでそこで黙るの!」

 「いや、ニムがいきなりだからだろ」

 「で、どっちなの」

 「そうだなあ・・・」

 「早く!」

 「せかすなよ・・・たぶんニムが言ってるような『すき』じゃないと思う・・・これで気がすんだか?」

 だが、ニムントールは不満だったらしく足を腕で抱え込み頬をぷくっと膨らませる。

 「なんか、そういう言い方は不満かも」

 「じゃあ『すき』だっていってほしいのか」

 「それはヤダ」

 「どっちなんだよ・・・」

 頭を抱える。どうすれば彼女は満足してくれるのだろう。そんな事を思っていると違うことを言ってきた。

 「シキはすきな人いるの」

 「・・・いない、かな。憧れてる人はいるけど」

 頭の中に浮かんだのは自分に剣を教えてくれた女性だった。

 「その人と結婚するの」

 それを聞いた瞬間思わず笑ってしまった。自分と先生がそんな関係になるなんて考えた事など一度もないし、想像できない。

 「笑うな!」

 「悪い。でもそれはありえないだろ? 憧れじゃ、恋愛感情にはならないさ。所詮憧れなんだかならな」

 「そう・・・なの?」

 「ああ。それに、あの人はそういうガラじゃあないんだよ」

 話は終わったのだろう。ニムントールは興味を失ったらしく、視線をじっと草原の向こうに送っている。志貴はなんとなくさっきの事を聞いてみたくなった。

 「なあ、ニム。ニムは『帰りたい明日』ってあるか」

 「はあ? 意味わかんない」

 それを聞きながら我ながら変なことを聞いたと思う。

 「だよなあ・・・お前にわかるわけないか」

 「何かシキってニムのこと馬鹿にしてない?」

 「理解できないお前が悪い」





あとがき
 志貴の過去を振り返ってみました。内容も短くなって短編的なものになってます。(てか、いつも短編的だが・・・)
 出だしのシュン達はなんのためでたのかわからなくなりつつあるので、当分は無視する事にします。どうせいつかは出てくるし
 ああ・・・最近読者の感想が無いので作者は作者の心の友に感想を述べてもらっています。毎回毎回「まあ、いいんじゃない」なので、全然感想ではないのです。もっと直したほうがいいところとか、こんなのはどうだとか心の友ならそれくらいは欲しいです。きっと単なる我侭でしょうが
 とまあ、作者の愚痴に付き合ってくれてありがとうございます。次回作に会いましょう。

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