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 名前フェイ(家名なし)、性別不明(たぶん男)、年齢不詳(二十歳を過ぎたくらいだと思われる)、職業医者(無免許)、数日前まではダーツィ領のイノヤソキマに在住していたが、役人がうるさいのでダーツィ領を出る(本人談)、前科有り(食い逃げ)。

 渡された資料に目を通す。新たに訓練士として雇った人物の事を思い出しながら小さく嘆息する。実際訓練士としては優秀だった。スピリットよりも腕が立つ。何も問題が無いはずなのだが・・・

 「くっ、この! 馬鹿にしてー!」

 エリが勢いよく飛びかかるもそれを難なく受け止める。今の彼女は神剣を使っていない。エリが持っているのはただの木で出来た木剣だった。だからというわけでもないだろうが、エリの攻撃は次第に精細さを掛けていく。

 (あれじゃあ一生かかっても勝てないな)

 志貴はそう思った。それほどエリとフェイの実力には差があった。

 次の瞬間エリは大きな音を立てて後ろに大きく転倒した。接近しすぎだったエリの脚をフェイが払ったのだ。それだけだった。

 「ふっ」

 実際は声は届いてないのだが仕草でフェイが笑うのが分かった。嘲りとかそういうのではない。ただからかっているだけだった。それがエリを怒らせている原因であることは彼自身が一番分かっていた。

 「もう一回!」

 だっと、立ち上がり木剣を振り回す様を部屋の窓から眺めながらもう一度資料に目を通す。

 「食い逃げね」

 誰に言うでもなくただつぶやく










5本目の神剣〜食い逃げが語る〜










 「ふう」

 ため息と一緒に書類の束を机の上に投げた。

 「あー疲れた。目が痛い。こりゃ眼精疲労ってやつだな」

 椅子の背もたれに体重を預け背筋を伸ばす。いつの間にか日が傾き始めていた。外で訓練していた連中も既にいなかった。再び椅子に背を預けると扉をノックする音が響いた。

 「シキ様、よろしいでしょうか」

 「ああ」

 失礼しますと入ってきたのはアルエットだった。

 「シキ様、資料のほうは目を通してくれましたか?」

 「ああ。苦労したけど今全部見終わった」

 そう言って机の上の資料をアルエットに渡す。その時ふと新しい訓練士の事が気になったので志貴はアルエットに聞いてみた。

 「そう言えば、あの訓練士・・・フェイだっけ? アルエットの紹介だったよな」

 フェイと言う訓練士はついこの前、食い逃げ事件があった後に夕食時にアルエットが紹介したのだった。本来なら昼間のうちに館まで来る予定だったのだが、到着が遅いのを心配したアルエットが街まで探しに行った所をばったり出くわし、その後手続きなどを済ませていたために館に来るのが遅れたらしい。その後はエリの怒りが再燃し、あわやというとこまでいったのだが、アルエットがその場とりもってくれて落ち着いた。

 「あ、はい。以前よりイノヤソキマの村には腕のいい訓練士がいるのはわかっていました。一人はミュラー・セフィス様という剣聖と呼ばれていた方なのですが、以前より消息が不明です。今回お呼びしたのはフェイ様という方です。村で闇医者として働いていたみたいです。訓練士としては表立っては動いていなかったようで、そのため他の勢力が気づいている様子はありませんでした。バーンライトにもその存在は知られていませんでしたが、数日前に情報部にフェイ様自信が接触を図ってきたとのことです」

 そこで一旦区切りをつける。何か躊躇した挙句、アルエットが口を開く。

 「正直に言うと、とても得体の知れない人です。スピリットより卓越した戦闘技能だけでも信じられないというのに、エリとリュミの報告には神剣魔法すら退けたともありました。シキ様もどうかお気をつけ下さい」

 「それは俺も感じていた。だけど・・・なんとなくだが、フェイは信頼できるんじゃないかな。」

 「そうでしょうか・・・」

 アルエットが心配そうにつぶやく。

 「俺も警戒は一応するつもりだ。『閃光』の意識が戻ればいい助言をくれるんだろけど・・・」

 腰に手をやる。そこには自分の神剣『閃光』が今も沈黙を保っていた。

 「やはり目覚めませんか」

 「ああ。意識みたいなのには触れられるんだけど、何ていうか全く別の剣に変わったような・・・とにかく変なんだ。」

 『閃光』が言った言葉を思い出す。

 (あいつは確かに別れを告げたんだ。それにありえないはずの時系列を進んでいるって・・・一体どういうことなんだ? 俺が間違った存在なのか・・・それとも歴史が変革しようとしているのか。だとしたら誰が何のために・・・)

 『閃光』は自分であれば大丈夫だといっていた。何が大丈夫かは分からないが、『閃光』は一度も嘘は言わなかった。志貴を第一に考え、行動を共にしてくれた。

 (そうだ。『閃光』を信じよう。今は自分が出来ることをするんだ)

 胸中で頷き自分のすべき事を決める。

 「ま、気にしても仕方ないだろ。それよりそろそろ飯にしないか?」

 「はい。わかりました」

 そのまま二人で部屋を出てリビングに向かう。リビングには誰かがいるらしく何か賑やかな雰囲気が漂っていた。中に入ると既に皆が食事をしいた。

 「ああ、志貴君やっと来たのか。先に頂いているよ」

 フェイだった。フェイは自分の事をシキとは呼ばず志貴と呼ぶ。この発音はこちらの世界の人には難しいらしく微妙にアクセントが違う。だが、フェイだけは違って正しい発音で志貴と呼ぶ。

 (たいした事じゃないんだろうけどな)

 そう思いながらもそれだけで親近感を感じてしまう。ただの勘違いなのかもしれないが。

 「ああ、別にかまわないよ。それより訓練のほうはどうだった? 俺が見ても皆それなりに力はついてきてると思うんだけど」

 「ん?・・・そうだな」

 と言って食事の手を少し休める。

 その場にいた皆の視線がフェイに向く。

フェイは腕を組み少し難しそうな顔をして暫しの黙考の後に言う。

 「確信は持てん。だが、このまま戦い続ければリュミ君以外は恐らく生き残る事はできまいよ・・・少なくとも若いスピリット達は確実に死ぬ。ということはバーンライトの殆どのスピリットがそうなると言う事だ」

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・うそ」
 誰が言ったのかはわからないが、長い沈黙の末に言えたのはそれだけだった。

志貴にはフェイが嘘を言っていないとわかった。いや、自分の中にあった疑問が確信に変わったと言うほうが正しい。つまりはこの戦争にどれだけのスピリットたちが生き残る事ができるだろうか、と言う事。

スピリットの数ではバーンライトのほうが上である事には変わりない。だが、個々人の戦闘力からしてみれば明らかにバーンライトは数段劣っている。実際戦闘があるたびにまだ顔も知らないスピリットの死亡届を聞く。自分が以前倒したスピリット以外にラキオス側のスピリットを倒したと言う報告は聞いたことが無い。

 (じり貧・・・つまりはそういうことか)

 先ほどまでの明るい雰囲気は消え、重たい空気が漂っていた。それを見かねたのかフェイがため息まじりに言う。

 「やれやれ、何を落ち込んでいるんだ? せっかく私が手ほどきをしているというのにむざむざ殺すようなマネを私がすると思っているのか!?」

 「どいうことだ?」

 わけがわからなかった。自分で死ぬと言っておきながら死なせないと言っている。あまりにも矛盾した返答に志貴だけではなく、皆が困惑していた。

 「本当にわからないとはな・・・」

 フェイはやれやれと言った口調で説明をはじめる。

 「私は『このまま戦い続ければ』と言った。なら、このまま戦い続けなければいいだけの話ではないのかね? 戦いとはいつも正攻法だけとは限らない。時には敵の裏をかくことも必要だ・・・そこで、私に一計があるのだが・・・乗ってみるかね?」

 にやりと笑うその顔は妖艶と言う言葉が似合うだろう。その瞳の奥に怪しいものを感じさせながらもその言葉は自信と言うよりも確信に満ちていた。志貴は直感的にこの人物には一生かかっても勝てないと思った。そもそも何で勝負するかと言うよりも勝負すらしたくないと言うのが正しい見解かもしれないが・・・










 「志貴君。いいかね」

 「? どうぞ」

 扉の向こうからはフェイの声、ノックは無かったが一応断ってから入ってくるところは一応マナーは守る人なんだなと志貴は思った。

 「どうしたんだ? こんな時間に」

 既に就寝時間と言うには遅すぎる時間だった。こんな時間に起きている自分もそうだが、こんな時間に自分の部屋を訪れるのはもっと変だった。

 「うむ。君の神剣の事で来た」

 「俺の・・・神剣?」

 ああ。と頷いて先を続ける。その表情は真剣だった。

 「何かおかしな事は無かったかね?」

 「・・・いや、特には・・・意識が戻らないのは変わりない」

 今朝も『閃光』に呼びかけてみたが何も変わらなかった。意識には触れられるがそれ以上の変化は無かった。

 「・・・しい」

 フェイがぽつりと呟くのが耳に入った。ただ小さすぎて完全に聞き取る事が出来なかったが。

 「君の神剣・・・それは私の『眼』から見ても既に覚醒しているはずなんだが・・・何かが足りないようだ・・・」

 「足りないって・・・何が?」

 「それは・・・恐らく・・・」

 フェイはそこで言葉を区切った。何かを警戒するように辺りに目配せをする。不審に思って呼びかける。

 「フェイ?」

 「ん? 何だね」

 呼びかけに答えたフェイはいつものフェイだった。志貴はその変容振りに違和感を覚えた。

 (何だ・・・こいつは、何かを知っている?)

 それは確信を持てた。だがなぜそう思うのかがわからなかった。さっきの変容振りがそうさせたのだろうか、スピリットよりも強いからだろうか、まるで人を見透かしたような眼が気に入らないのだろうか、いつでも涼しい顔をしているから・・・これは関係ないかもしれない。

 (眼? 何でフェイの眼が気になったんだ? あれは何処からどう見ても普通の眼だ・・・おかしいはずなんて無いはずなのに・・・)

 「志貴君、大丈夫かね?」

 「っ!」

 どれくらい思考に没頭していたのだろう。それほど長くはなかったはずだがフェイが近くに来ていた事にさえ気づいていなかった。

 「だ、大丈夫だ・・・」

 「そうか。それは良かった」

 フェイは事務的な言葉でそう言った。あまり気にしていたわけではなかったようだ。

 「ふむ。志貴君、これだけは言っておこう・・・その神剣は既に『閃光』ではないはずだ。だが、その抜け殻とも言えるだろうな。簡単に言えば意識と無意識みたいなものだ。意識が無意識の上にかぶさっているから無意識が見えていないだけに過ぎん。それを取り払ってやればいいのだが・・・こればかりは私でもどうする事もできない。一度死ぬような目にあえば簡単かもしれないが・・・あまり勧められるようなことじゃない」

 「それなら大丈夫さ。明日はラキオスと戦闘になるんだからな」

 「そうだったな。私も出るから安心したまえ・・・そろそろ私は自分の部屋に戻るよ」

 「ああ」

 なぜフェイが自分の神剣について知っているのか気になったが志貴はあえて言及する事はしなかった。その答えはさっき感じた違和感のせいだと言うのもわかっていた。

 (まだ聞くべきじゃない・・・)

 振り返りもせずフェイが出て行く。部屋にはやはり自分しかいない。窓の向こうは闇に覆われ何も見えない。まるで自分が行く先を示しているかのように。だが、闇は闇でしかない。それは自分の進むべき道ではない。

 (そうだ。闇は道じゃない。道は必ず進むべき先が存在している。道に迷う道は無い。道なんだから、進めなければ駄目だ。)

 そう思うと闇が広がっていても恐怖は感じなかった。

 (全てが終わってから振り返ればいい。その時確かめればいい。自分が進んだ道を・・・)

 窓の向こうに広がる闇の中には街の明かりがぽつぽつと灯っていた。道標のように。










あとがき
 
 「こ、ここは・・・入ったら脇役決定になるっていう知る人ぞ知る恐怖のあとがきコーナー!?」
 
 何かいきなり変な設定組まれてますけどアルさんはここ初めてですよね?
 
 「脇役・・・(ぶつぶつ)」
 
 ・・・
 
 「二軍落ち・・・左遷・・・減俸・・・サブキャラ・・・レベル上がらない・・・三軍・・・控え・・・ルート外れた・・・フラグ立たない・・・(ぶつぶつ)」
 
 聞いてないし・・・まあいいか。それよりたぶん次ぎあたりでラキオスから離れられそうです。長かったですねホント。
 
 「ぐすっ・・・脇役・・・」
 
 作者としても初でいきなりの長編ものと無謀の挑戦でしたから、しかも全部オリジナルで行く! 何ていき込んでるものだから行き詰ると大変ですよ全く・・・
 
 「うっうっ・・・」
 
 泣くなよ。無視したの謝るから・・・ぺこちん☆
 
 「ぐすっ・・・作者なんて・・・作者なんて・・・」
 
 ? ど、どうしたんだ!? 何か目がスわっちゃってるけど・・・てか、その先のとがった物騒なものはしまってくれると嬉しいんだけど・・・
 
 「死ねーーーーー!」
 
 ぎゃーーーー!

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