人はどんな時に絶望するのだろう。
絶望する理由は様々だが、絶望する瞬間というものは恐らく全ての人が同じなのではないだろうか?
信じるものが失われた時――人はやはり絶望するのだろう。どんなに強い精神を培ったとしても、信じるものが失われたら絶望するしかない。回避するすべなど存在しない。
なぜなら、人はそれが個人として完結しているから。周りから何を期待されても自分に出来ることしか結局は出来ないのだ。全ては勝手な自己満足にしか過ぎないのだ。他人の関心ごとも、自分自身のことでさえ・・・。
だから絶望する。はるかな高みを目指し、力の無さに悔やむ。奇跡が無いから、この世界には奇跡が存在しない。神がいないのだから。
5本目の神剣〜咎人の剣〜
――ゆらっと、『求め』から蒼い炎が揺れたような気がした。悠人が顔を上げる。その瞳は自分の記憶にあるものとはまったく違っていた。
自分の知らない『誰か』が言う。低く、だがはっきりと聞こえる声で。
「・・・お前が、いけないんだ・・・お前が俺の敵になったりするから・・・」
それは憎しみの瞳。全てを否定し、自分以外の全てを悪とする暗い炎。それが自分に向けられていた。
空気が重く感じられた。例えようの無い憎しみが全て自分に注がれているせいでそう感じるだけかもしなかったが・・・
(これが・・・悠人なのか・・・)
思わず疑ってしまう。目の前の『それ』に気押されているのは分かっていた。喉が渇き、思わず唾を飲み込む。喉が少し痛んだ。
肩越しに後ろを見ると、敵の強大さを知ったのかサラとリュミエールが小さく震えていた。
(このままじゃ・・・負ける・・・)
相手の力は未知数。だが、強大であるのは疑いようも無かった。サラとリュミエールが相手に出来るものではない。
「くっ・・・下がれ! こいつは俺が相手をする!」
聞いてくれるかどうか不安だったが、二人の気配が遠ざかっていくのを確認して安堵する。そして正面の敵を見据える。
「・・・」
無言のまま『閃光』を構える。
そして――
だんっ! と、地面をえぐるほどの踏み込みで悠人が一気に間合いを詰めて『求め』を振りかぶる。志貴は悠人が動き出す前に後ろに跳躍した。数メートル離れたところに体勢を崩した悠人がいた。
意識を集中して、構成を一気に組み立てる。
「マナよ、光りの奔流となれ! ヒートショックウェイヴ!」
純白の光芒が悠人のいた地点に突き刺さり、爆発と共に火柱をあげる。タイミングは完璧だった。悠人に避けることなど不可能だったはずだ。
「・・・やったか?」
衝撃と熱波を肌に感じながらつぶやく。爆風で視界が悪いが何とか見えなくもない。
次の瞬間。陽炎の向こうで何か動いた気がした。
「・・・マナよ一条の光芒となりて敵を撃て」
「!」
「オーラフォトンビーム!」
悠人が放った神剣魔法は熱波の渦を突き破りながら、荒れ狂う光芒が破壊の手を伸ばして来た。
「リフレクション!」
とっさに防御の構成を放つ。悠人の放った神剣魔法を正面から受け止め、反射させようとするが、お互いを食い合うように拮抗状態になる。
(神剣の力はこっちが不利、手持ちの神剣魔法も打つ手なし、バリアもすぐに効果が切れる、相手の神剣魔法は未だに威力十分・・・くっ、このままじゃ!)
胸中で舌打ちをし、覚悟を決め、神剣に力を集中させる。
「これでぇぇぇ!」
バリアが砕けるが志貴は押し寄せる光芒にオーラフォトンを纏わせた神剣を叩きつける。
どごぉぉん!――
「ぐっ・・・はぁっ・・・」
爆発の後で立っていられたのは奇跡だっただろう。神剣魔法を十分に相殺できず、体は既に満身創痍の状態だった。顔にぬるっとした嫌な感触が走り、手で拭う。手に血がべったりと張り付き傷の深刻さを物語る。
(あいつは・・・どこだ・・・)
視線だけで探って見るが、この視界の中で探すのは困難だった。
キィン!
(・・・っ右!)
短い警告音と同時に鋭利なものが飛び出してくるものが目に入った。
振り下ろされる『求め』を『閃光』で受け止めるが、傷のせいで力が入らず膝を突く。次の瞬間、体を貫くような衝撃が走る。蹴られたとのだと気づいたのは仰向けに倒れたのと同時だった。
「ぐぁっ!」
全身が痛み、もがくが、何とか片目だけは開いて悠人を見失わないとする。が、その必要は無かった。悠人はその場所を動こうとせずに、怒れる瞳で自分を見据えていた。
「・・・かった・・・」
「?」
聞き取れず疑問符を浮かべているこちらを無視して悠人が続ける。
「殺す必要なんか無かった・・・」
「・・・」
「お前ほどの力があれば殺す必要なんか無かっただろ! 違うか!?」
「・・・」
「何とか言えよ!」
ふらりと無言で立つ。傷が痛むが、何となくそうしなくてはならないような気がした。
(確かに・・・殺さなくてもよかったはずだった・・・)
脳裏に蘇るのはこの前戦ったスピリットの顔。まだ死ぬには早すぎる命。
(それを終わらせたのは・・・俺か・・・)
守りたいものがあった・・・といっても悠人は納得しないだろう。自分がそうであるように悠人にも守りたいものだったのだから。既に感覚の消えた左手で神剣を握る。それに呼応するかのように神剣から力が伝わる。それがわかったのだろう。悠人の表情が強張る。
自分の心がだんだん冷たくなっていくのが分かる。そうなるにつれて神剣から引き出される力も大きくなる。
「悠人・・・俺は皆を守る。お前だって守りたいものがあるんだろう?」
神剣を両手に構える。視線の先には悠人がいた。
「戦うしかないだろう? お互い守りたいものが違うんだからな!」
瞬間。体が一気に加速する。体が悲鳴をあげるが構わず突き進む。
一瞬で背後に回りこむと神剣を縦に振り下ろす。
ぎぃん――
(・・・壁!?)
そう理解した後に一拍遅れて悠人が神剣を振るうが、今の自分にはそれは止まっているように感じられた。バックスッテプでかわしたところに再び切りつけるが先ほどと同じようにオーラフォトンの壁に阻まれる。
(神剣の直接攻撃じゃ届かないのか!? 後は神剣魔法しかないがそれじゃさっきと同じだ・・・『閃光』、何か手は無いのか)
『我の予想以上に『求め』がマナを得ている。今の我の力では正面からでは分が悪い』
(なら、どうすれば・・・)
既に『閃光』の力は消えていて、供給された力も使い果たしていた。形成が逆転し、悠人の何度目かになる攻撃をかわす。
『恐らく、今の我では『求め』に敵わない』
足場が悪く、バランスを崩したところに悠人が神剣を一閃させる。もともと満身創痍だった体に無理を重ねたせいもあり、受け止め損ねてしまう。左肩に激痛が走る。外傷はひどくなかったが、何かかが折れるような嫌な音を聞いた。
「がぁっ!」
痛みのあまりに声を上げるが、それでも『閃光』の声は冷静だった。
『だが、我の存在そのものを力とするならあるいは・・・』
キィン。キィン。キィン・・・
(なんだ・・・これは・・・)
頭の中にいくつもの音が響く。警告に似た。だが、どこか違う哀愁のようなものを帯びていた。同時に頭の野の中にイメージが伝わる。それは究極の破壊。命そのものを爆発させる破壊。自身の制御を外れ、力の限りに全てをなぎ倒す。
『契約者よ・・・いや、実際に我と契約したわけではないが、契約者よしばしの別れだ。契約者よ、本来ならばこれは起こり得ない時系列なのだが、契約者ならば大丈夫であろう。さらばだ』
自分の制御を外れた破壊の塊が自分もろとも悠人を飲み込む。光りが視界の全てを覆い、熱波が全てを溶かし、衝撃が全ての瓦礫を押し流す。爆発と衝撃に木偶人形のように体を焼かれ体を何度もバウンドさせながらも意識だけは失わなかった。上下の感覚が無くなりそれでも立ち上がろうと必死でもがく。
「――ああああああああ!」
やがて全ての衝撃が収っまって自分が絶叫しているのにはじめて気づいた。
ぶすぶすと体がこげる臭いがする。
殆ど焼失したコートを地面にたたきつけ膝をつく。
目の前に大きな穴が出来ていた。周りにあった建物やら何やらが数区画分溶解し、瓦礫なども残っていなかった。
「ゆ・・・うと、は・・・」
視線をさまよわせる。周りに何もないせいか悠人はすぐに見つかった。いつの間に現れたのかグリーンスピリットが抱えるように抱いていた。悠人は気を失っていたようだった。すぐには気づかないだろう。神剣を杖代わりにして近づく。
「シキ様! 大丈夫ですか!?」
アルエットが同じように傍にいた。横から体を支えてくれる。
「そいつを、頼む・・・」
グリーンスピリットにそういう。自分が敵だというのにそのスピリットは神剣を構えようともしなかった。長い髪を後ろで結って戦場とは場違いなおっとりとした顔つきをしていた。
「はい。任せてください」
口調もおっとりしていた。思わず笑いがこみ上げる。それを押し殺して力なくいう。
「・・・撤退だ」
アルエットは何も言わずただはい。と言っただけだった。そして自分も抱えられるようにしてその場を後にしようとすると、グリーンスピリットが呼び止めた。
「あなたは、ユート様とお友達なんですか?」
「・・・ああ」
「そうですか・・・」
グリーンスピリットが何を思ったのかは分からないが志貴はその場を去った。いや、去るしかなかったのかもしれない。そう思った。
あとがき
悠人と志貴の戦いが終わって、作者の戦いも終わりました。というのも作者はこれを書いてる時、まさしくテスト期間だったのですよ。いやー大変だった。でも、これ書いてないと一日の調子が出ないというか何と言うか・・・てなわけであとがきです。
今回は悠人と志貴を戦わせてたのは作者的にそろそろかな〜と思っただけで戦わなくてもよかったんじゃないかな〜と思ってたりしてます。でも、話が進まなくなるのでそうさせていただきました。
「はっきりしない奴だな」
おわっ!・・・あんた誰!?
「私か? そうだな・・・たぶん次回作で会うだろう。だからそう気にするな」
う〜また新キャラかよ。
「そう言うな。ところで作者。この調子で書き続けていると予定の期間までに終わらせるのは難しそうだな」
何? 予定なんか作った覚えは無いぞ!←おい!(汗)
「ふふ。私が作った黙示録にはそうかかれているのだよ。というわけできりきりと書いてもらおうか」
作るな! そんなもん! というわけで哀れな作者に次回作を生きてたら期待!
スキル
・ヒートショックウェイヴ
志貴が使うサポート用スキル。簡単に言うと熱衝撃波そのまんま。爆発と衝撃を波状にして連続的に繰り出す。