
本音対談 我、「国賊」と名指しされ−−
■防衛大臣としての真意を語ろう(8)
「WiLL」6月号渡辺論文で批判された歴史観、対中観の問題を直撃!
評論家 潮 匡人/防衛大臣・衆議院議員 石波 茂
政治家だからこそ発言している
潮 そう相手国に受け取られかねない発言は、防衛大臣として不用意ではないかというのが、「国賊」との表現が適切かはさておき、保守陣営の批判を招いた理由ではないでしょうか。
石破 そうした発言すら「国賊」と言われるなら、しかたありません。ですが、そうした声高な議論がアメリカで何を引き起こしたか。現に激しい日本批判となった。おっしゃるとおり、狭義の強制連行の証拠はないと思います。
しかしまったく関係していなかったわけではない。それを否定すると国際社会での日本の立場が非常に難しくなる。むしろ、私たちが考えるべきは、日本に真のシンパシーを持つ国をいかに増やしていくかです。日本が国連安保理の常任理事国になりたいと言った時、共同提案国になってくれた国がたった三カ国しかなかったのは、ただ中国が反対とか怖いとかいう理由だけではなかったのではないか。アジアの国々の理解を深めることは不可欠ですし、アメリカが日本に嫌悪感を持つことも避けねばならない。「断固たる主張」や「毅然たる姿勢」だけでそれが得られるなら、誰も苦労しませんよ。
現内閣として集団的自衛権を認める方針はありませんが、将来的にその議論をするなら、「日本が自衛権に名を借りた侵略戦争をしようとしている」などといった批判を招くことのないよう、細心かつ周到な用意が必要です。先の大戦で日本が東南アジアの国に何をしたのか、労務者としてどれだけの人を徴用し、どれだけの人が死んでいったのか、我々はほとんど何も教わっていない。経済力や軍事力だけで信頼は得られません。国益を守るために、日本を信頼してくれる国をいかに増やしていくか、その努力こそが、政治家の仕事だと信じています。
潮 国益を擁護すべき大臣に、あえて国際社会の反発を招く発言をすべきだとは言いません。ただ、「南京大虐殺」や「強制性の有無」は事実の問題です。大臣と私の事実認識がそれほど離れているとも思わない。むしろ一致している。だとすれば、「狭義の強制性はなかった」という事実についても、節度を踏まえつつ、しっかりと主張すべきではないでしょうか。
石破 それは歴史家がやるべきことであり、政治家はその環境を整えることが仕事でしょう。歴史家の真摯な議論を踏まえた上で、共通の認識に基づく信頼関係を日中間で築いていかなくてはなりません。
潮 政治家と学者、それぞれ役割の違うところはあるでしょう。ただ戦後半世紀以上、わが国の首相、主要閣僚の公式な発言、国会における「謝罪決議」、天皇陛下のお言葉を含め、「開き直りの対極」のような低姿勢を戦後日本は内外に示してきた中で、くどいようですが、事実関係で重大な疑念を生ずる一線に踏み込む発言は慎重であるべきではないかと。
石破 そこは、かなり気をつけてインタビューに応じているつもりです。だから、きちんと全部聞いてくださいと申し上げている。私は「大虐殺があった」と言ったわけでもない。「強制連行があった」と言っているわけでもない。そこは、史実として共同研究が必要だと思います。ですから「強制連行はなかった」とか「南京大虐殺はでっち上げだ」とか言うのも賛成できない。逆に「ありました」と認めるのも行きすぎでしょう。その間を、どう取っていくか。それを考えるのが、政治家の仕事なんです。
潮 昨年末、中国の軍艦「深●(●=土へんに川)」が日本に来ました。先日は、海上自衛隊の護衛艦が中国を訪問しました。日中の防衛交流も進んでいます。同時に、中国の公表した数字に限っても、二桁の軍事費増大が止まない。中国政府高官の挑発的な発言も飛び出す。その中で石破防衛大臣は中国に「透明性を高めてほしい」と注文もつけている。適宜、言うべきことは言っている。私は大臣会見をすべてチェックしていますので、そこは理解しておりますが、マスコミは伝えない。だからこそ、中国や韓国に対する配慮と同等以上に、日本国民の不安を払拭する発言を、ぜひ語っていただきたいのですが。
続く
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