それは突然だった。
ありえないことだった。
いや、これが現実である以上は、それを認めるしかなかった。
そして、自分が明らかに動揺しているのだけははっきりと理解していた。
それは向こうも同じだったらしく、わけが分からないというような顔をしていた。
口が開き、何かを言おうとする。ありえないと思いつつも、目の前の人間はあまりにも自分の知っている人物にそっくりだった。
「枯木・・・」
「お前、遠野なの、か・・・」
剣戟が響く中、静音が二人を包んだ。
5本目の神剣〜出会い〜
二人の邂逅から数ヶ月前
遠野志貴とは枯木悠人を知る数少ない人間であると共に、数すかない親友である。
いや、親友だった。というべきだろう。悠人の両親が事故で亡くなり、高嶺の家に養子として引き取られてから、二人の交流は絶えてしまったのだから。
それでも志貴は悠人を何故かいつまでも忘れることは無かった。まるで誰かがその記憶だけを忘却させまいとするかのように・・・
―どこか ある一室―
その部屋には主というものが今までは、いなかった。
なぜならそこは元々はただの空き部屋に過ぎなかったのだから。
そのため、部屋は掃除が行き届いてなく、埃があちこちに―というより部屋全体に目立っていた。
だが、そんなことで、この部屋に自分を案内した人物を恨んだりはしないだろう。それが遠野志貴という人物なのだから。
(なんか物凄く、だりぃー・・・眠い・・・)
だが、志貴は今までの経験から、これ以上寝ると学校に遅刻するというのが嫌でも分かってしまった。
遅刻はしたくない。なぜなら志貴はあと一回遅刻をすると、留年確定だからだ(遅刻程度で留年ってなんだと理不尽に思いながらも)。でも、眠い。でも、留年だけは嫌だ。
思考をそこで中断した。意味が無いと思ったからだ。結局のところ最後は保身のためにしか動くのを余儀なくされるのだから。
ゆっくりと布団を頭にかぶり、
寝た。
「・・・(グゥ・・・)」
そう。何を隠そう、志貴は朝が苦手なのだ。自他共に認めるキング・オブ・低血圧だった。誰にもほめられることは無いが・・・
「・・・」
『・・・』
何か一瞬気配のようなものが伝わるが、志貴はそれを無視した。
「・・・」
『・・・おい』
何かが自分を起こそうとするが、そんな事くらいで起きるようなキング・オブ・低血圧ではない。志貴はかまわずに眠り続けている。
「・・・」
『この馬鹿者がっ! いい加減に起きろーーー!』
「! って〜! あ、頭が割れるっ!」
布団から飛び起き、しばらくの間苦悶したあげくにようやく志貴は周りを見渡した。さっきの声はもう聞こえない。代わりに何か不機嫌そうな空気が伝わってくる。
「・・・ここ・・・どこ?・・・」
『ここは滅び行く世界だ』
「? 空耳? 今声がしたような・・・」
キョロキョロと周りを確認するが誰もいない。
見た感じ、部屋は飾り気も無く、簡素なつくりとなっていた。机とテーブル、そしてベッド。何も無かった。
いや、埃をかぶったテーブルの上に一本の剣が鞘に収まっていた。飾り気はまったくといっていいほどに無く、この部屋と同じ印象を受ける。
それを、珍しさから手に取ってみる。初めて持ったはずなのに、不思議と手に馴染む。今度は鞘から抜いてみた。やっぱり飾り気の無い刀身がその姿を現す。ただ、その刀身は、闇の中でも道を示す一筋の光。そんな印象を受けた。
「うわー。すげぇ高そー!」
『契約者よ。間違っても我を質に入れたりはするなよ』
「まぁ、それはぼちぼち考えるとして」
志貴は適当に剣に相槌を打って続けた。
「そんなことより、契約者? それって、いっ・・・たい・・・」
何なんだと、言おうとしたそのとき、志貴は認めてしまった。自分が剣に話しかけていることに。
『どうしたのだ。契約者よ』
「けっ、剣がしゃべった!?」
剣を放り投げだしたい衝動を抑えてその剣を目の前まで持っていき、まじまじと観察する。
当たり前だが、剣には口などついていなかった。この辺の常識がまだあることに志貴は少なからず安心した。それに、声は音声というよりも、頭に直接響くような感じだった。
『ふむ。どうやら落ち着いたようだな。我は永遠神剣第四位『閃光』という。真名は別にあるのだが、今はわけあってこの姿をとっている。』
「俺は遠野志貴。・・・だけど『閃光』? だっけ、一体何がどうなってるんだ? さっぱりだぜ。俺はこんなところ知らないし、来た覚えだって無いって言うのに・・・」
『うむ。契約者には我が現状を説明しよう。そのうち妖精も我の気配に気づいて来るだろうからな。・・・』
それから志貴は剣に質問したり、うなずいたり、驚いたりと、はたから見れば頭がおかしくなったのではないかと、疑われるようなことをしばらく繰り返すことになった。
―バーンライト王国 サモドア スピリットの館―
リュミエール・レッドスピリットは王城から言い渡された任務に頭を悩ませていた。
(現在拘留中のエトランジェを説得、バーンライトに引き入れよ。それが叶わぬならエトランジェを殺せ・・・か)
もう何度目になるか分からないほど、頭の中でそれを復唱する。ハァ、と軽くため息をつく。
「私にどうしろってのよ! 説得できなかったらエトランジェをどうするのよ! 私が敵うわけないじゃない!」
誰にともなく愚痴る。というより誰もいないのだから自然と独り言になるのはしょうがない。他のスピリットたちは国境付近の警備などで出払っており、たまたまリュミエールしか今はいないのだった。
リュミエールはバーンライト王国のスピリット隊のまとめ役でもあるのだが、強さで言えば、それほどではないのだ。
「あーあ。せめてサラとアルエットがいてくれればな〜」
だが、こうやっていても自体は好転しないのは分かっていた。というより、無いものねだりをする自分がばかばかしくなってきたからだが。
「仕方ない。頑張ってみますか(死なない程度に)」
リュミエールが立ち上がりかけた時だった。
キィン!
彼女の神剣『弘誓』から強大な神剣の反応が伝わってきた。それも自分など足元にも及ばないほどの力だった。それが誰のものかもリュミエールには分かっていた。
(これが、エトランジェ・・・確かにこの力は魅力的ね・・・)
『弘誓』を手に取り、急ぎつつも、落ち着きを保ちながらエトランジェのいる部屋に向かった。
―どこか ある一室―
「・・・これで契約は完了ってわけか?」
『そうだ。契約者は我の力を行使できるようになった。その代わりに我に力の代償を支払わねばならぬが・・・』
志貴は体の調子を確かめるように体を動かすが、自分で感じられるほど何かが変わったようには思えなかった。
「ふーん。それで、俺はこれからどうすればいいんだ?」
『うむ。そのことなのだが、我に聞くよりも妖精に聞いたほうがいいだろう』
ガチャ
「?」
『閃光』言い終わるのとほぼ同時にこの部屋の唯一の出入り口である扉が開かれた。
「君は―」
誰なんだ。と言おうとする前に、侵入者が口を開く。
「あなたには二つの選択肢が与えられます。エトランジェとしてその力をもって、私たちに協力するか、今ここで私に殺されるか。好きなほうを選びなさい」
志貴はしばらく虚空を見上げるように考え込んでから、自分の疑問を侵入者に投げかけた。
「・・・なぁ、それってずいぶんと幅の無い選択肢だと思わないか?」
志貴が不平を言うと侵入者が、
「あなたに質問する権利は無いわ。早く答えなさい!」
そういって、侵入者の顔つきが険しくなる。
志貴は侵入者を観察した。性別は女、容姿端麗、赤い髪、赤い瞳、赤をイメージされているであろう赤い服、それと手には・・・
(・・・あれが永遠神剣か?)
身長ほどもあるダブルセイバーが握られていた。そして、それらが意味するものは、
(これが・・・スピリット・・・)
人間よりも強い力を持ちながら、決して人間には逆らわない戦争のための道具。この目の前のスピリットはその一人でありながら、志貴自身をもそこに引き入れようとしていた。
(『閃光』の言ってたとうりってわけか・・・エトランジェとスピリット・・・)
思考をそこで中断し、『閃光』に意識を集中する。
(おい『閃光』。どうすりゃいいのさ?)
『契約者よ。何も迷うことはあるまい。』
(あのなぁ、これって、自分の命がかかってるんだぞ? もし俺が死んじまったらどうすんだよ。お前だってやんないといけないことがあるんだろう?)
『ふむ。だがな、並みの神剣では我の力には到底及ぶことは無い。我も契約者をみすみす死地に追いやるようなまねはしない。』
だから安心しろ。と、最後に『閃光』は言った。
(そっか。平気・・・なのか。・・・なら、決まりだな)
意識を切り離し、スピリットに視線を向ける。どうやら、それなりに時間が経過してたらしく、スピリットはさっきよりもイラつきを隠せないでいるようだった。
「決まったぜ」
その瞬間。スピリットが息を呑むのが伝わり、緊張するのがわかる。志貴はそれを見ながらゆっくりと口を開いた。
「バーンライト王国のエトランジェとして、協力してやる」
この数日後、このことはバーンライト王国領全土に広がることとなる。
戦乱の時代に現れたエトランジェ。それは歴史の中に埋もれてしまった5本目の神剣の物語・・・
あとがき
終わった。やっと終わった。終わった・・・「5本目の神剣」やっと始まったのに、もう疲れている作者です。初めての投稿っていうのもあるけど、って、それしか見当たらないのが自分らしかったりして・・・意味分かりませんね。(あとがきらしく)今回の作品では、悠人は脇役です。最初にちょろっとでて、ほとんどでない予定です(実はもっと脇役な奴がいるんだが)。ということは、その周りの奴らも出てこないんですよね。あはは。←笑うなって! それでは、次回に期待(小)!
新規キャラクター
・リュミエール・レッドスピリット
バーンライト王国の古参のスピリット。全体的な強さは他のスピリットと大差ないが、戦場で生き残るすべに長けており、数々の戦場で傷つきながらも、生き延びてきたベテランスピリット。志貴との最初の出会いが最悪だったため(主に自分が一方的に)、それ以降は志貴に対してすまないと思いながらも、心を開けずにいる。愛称はリュミ。